結果である。最後に、LEDチップ及びAlNナノ光取出し構造の面積を1.8×1.8 mm2に拡大したデバイスの光出力特性を図8に示す。発光領域を拡大しループを更に抑制することで、発光波長265 nm、シングルチップ、室温・連続駆動下の深紫外LEDにおいて(図9)、光出力520 mW超という小型低圧水銀ランプに匹敵する特性が得られた。今後の展望とまとめ環境にやさしく、小型・ポータブルで高出力な深紫外LEDの実現は、水銀ランプの置き換えだけではなく、持ち運び可能なウィルス殺菌システムやポイントオブケア型医療、家電搭載など、これまでにない小型DUV光源の特色を活いかした様々な新しい応用分野の開拓が期待される。本稿で取り上た単チップでの265 nm帯深紫外LEDの高出力動作実証は、それらの普及へ鍵となる光源の高出力化と低コスト化、両面に対して大きく貢献する技術である。また一方で、深紫外LEDには外部量子効率(Exter-nal Quantum Efficiency: EQE)や長期信頼性など、いまだ改善すべき点が多いことも付記しておく。我々は265 nm帯深紫外LEDの EQEとして最も高い6.3%を報告している[5]。また、より長波長(より低Al組成)の275~280 nm帯の深紫外LEDでは、p-GaNを使わずp-AlGaNに直接コンタクトを取ることで、比較的低出力であるものの10~20%程度のEQEも最近報告されている[21][22]。2000年代前半までUV-C領域のEQEが0.5%未満程度であったことを考えれば大きく進展しているものの、80%超のEQEも実現されている青色LEDの効率[23]と比較するといまだ低い値にとどまっている。今後、新しいコンタクト材料の開発[24]やナノ光構造を用いたDUV光制御技術の更なる発展はもちろん、周囲のパッケージ構造まで含めた新たな工夫の導入を考えている。発光波長が最も短く、あらゆる箇所での光吸収、自己発熱や経時劣化が生じやすい深紫外LEDにおいては、それらの課題に総合的に対処し、性能だけではなく信頼性まで含めた議論を積み重ねて進展していくことが重要である。今後は、深紫外LEDだけでなく深紫外レーザーダイオー(LD)も含め、水銀フリーかつ小型・高出力・高効率、長寿命な深紫外固体光源システムの研究開発を更に発展させ、その社会実装を実現していくとともに、これまでになかったソーラーブラインな特徴を活かした様々な新しいDUV-ICTの開発可能性を世界に先駆け実証していくことで、安心・安全でクリーン、持続可能な社会の構築に貢献することを目指していく。謝辞本稿で紹介した研究は、深紫外光ICTデバイス先端開発センターのメンバーの協力及び株式会社トクヤマ並びにスタンレー電気株式会社との共同研究の下、実施されたものである。また本研究は、科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業A-STEP(AS2525010J、AS2715025R)からの支援の下に遂行された。協力いただいた関係者の皆様にこの場を借りて深く感謝申し上る。【参考文献【1A. Khan, K. Balakrishnan, and T. Katona, “Ultraviolet light-emitting diodes based on group three nitrides,” Nat. photon., vol.2, pp.77, 2008. 2M. Kneissl, T. Y. Seong, J. Han, and H. Amano, “The emergence and prospects of deep-ultraviolet light-emitting diode technologies,” Nat. photon., vol.13, p.233, 2019.4DUV-LED chip 図9 実装後、電流を印加し発光中の深紫外LEDの外観写真図8面積を拡大したナノ光構造付加型深紫外LEDの注入電流に対する光出力。挿入図は1A時のELスペクトル80 情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)4 環境制御ICT基盤技術 —基盤から社会展開まで—
元のページ ../index.html#84