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れらの金属構造は金属と誘電体の界面に局在する素励起である表面プラズモンポラリトン(Surface Plasmon Polaritons、以下SPPs)共鳴を持つとする。最上層の金属構造は、水平偏光に対して高い透過率を示すプラズモニック共鳴を有するように設計されているとする。バビネの原理によれば、ネガポジ反転した構造は水平偏光では非共鳴かつ低い反射率(高い透過率)を示す。最上層の構造に異方性を導入して垂直偏光に対しては非共鳴かつ高反射率となるように設計すると、相補的構造は垂直偏光に対しては低い透過率(高い反射率)を示すプラズモニック共鳴を持つことになる。これらの相補的構造が積層すると、層間の相互作用が無ければ全体の光学応答は個々の光学応答の掛け合わせで記述でき、水平偏光に対しては高い透過率を示し垂直偏光に対しては低い透過率を示すことになる。このように、積層した相補的構造は高性能偏光子として振る舞うことになる。このシナリオでは、消光比は104を超える値が数値計算でまず示され、実験的にも確認された[35]–[38]。しかし、バビネの原理を用いるメタ表面偏光子の性能は、金属損失の増大とともに劇的に悪化してしまう。したがって、メタ表面で実現できる超高消光比は貴金属の金属損失があまり顕著ではない通信波長帯域でこれまでに報告されてきた。可視光や深紫外光などの光学損失の大きな波長帯域でそのような超高消光比を実現することは挑戦的な課題である。本稿では、深紫外領域(UV-BとUV-Cと定義する)における高性能メタ表面偏光子に関して紹介する。深紫外領域の偏光子としてはワイヤーグリッ偏光子(Wire Grid Polarizer, 以下WGP)がよく用いられているが[39][40]、基本的には半導体の光吸収を動作原理としている。したがって、WGPの設計は光学材料の種類に大きく依存し、Alなどの金属材料を用いたWGPの性能は低いことが知られている。我々は、AlのようなUV領域における典型的プラズモニック材料を用いた高性能偏光子が可能となることを示す。その動作原理は構造パラメータによって制御可能な干渉効果に基づいており、典型的なプラズモニック材料をメタ表面偏光子の構成材料として用いることができる。これによって設計自由度が格段に向上する。我々が提案するメタ表面偏光子は反射型であり、その消光比は数値計算値で6.2×106を超える。そのような高性能が実現する物理的メカニズムに関しても説明する。これらの知見に基づいて、実際にサンプルの作製を行い、干渉効果によって消光比の増大が確認されることを説明する。メタ表面偏光子の設計深紫外光領域は波長が短いため、対応する光微細構造の作製難易度が高く、さらに材料の光損失も大きい。このような深紫外光領域で何の指針も無く設計するのは難しい。どのようにして設計指針を得ることができるのかをメタマテリアルの発展の歴史から考える。メタマテリアルの黎明期においては、まずマイクロ波領域で研究が展開された。マイクロ波領域においては、金属を完全導体とみなすことができるうえ、サブ波長領域も数mm程度であるためサンプルを作製しやすいメリットがある。メタマテリアルで実現可能な代表的電磁応答である負の屈折率もマイクロ波領域でまず実証され、その後光領域へと展開がなされた[41]。本研究においても、まず深紫外光領域よりも長波長かつ低損失な通信波長帯域においてメタ表面の設計を行い、消光比の高いメタ表面偏光子の設計に必要な物理的機構を明らかにする。その知見に基づいて深紫外光領域でのメタ表面偏光子を設計、作製、そして実証する。2.1通信波長帯域において超消光比を有するメタ表面偏光子とその性能本研究で考えるメタ表面偏光子は3層から成る(図2)。最上層はAg(銀)薄膜に空気孔対アレイを有する構造をしている。その単位胞は上面から見て左右2(a)(b)(c)QuartzAgAg00+図2 通信波長帯メタ表面偏光子の(a)鳥瞰図、(b)上面図、(c)断面図854-2-2 深紫外偏光制御デバイスの研究開発

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