分散関係を考える。図6(a)及び(b)は 及び 偏光に対する角度分解透過率スペクトルの計算結果を示している。この計算において、入射角を-30°から+30°まで2°刻みで掃引した。 偏光においては、消光比が極めて大きくなる波長域に3つのモーが存在していることが分かる。これらのモーを区別するために、□、●、そして▼記号でモーをラベリングする。□で示されたモーは垂直入射において波長1260 nm近傍で交差する分散関係を持つ。この交点は、 方向に基板側の1次回折が開く波長( で与えられる)よりも少し長波長側にある。ここで、 は石英の屈折率の実部である。したがって、このモーは基板/金属界面を伝搬する伝搬型SPPsで、 方向の1次の逆格子ベクトルによる折り返しにより励起されるモーである。▼でラベルされたモーは入射角依存性が弱く、垂直入射では波長1342 nm近傍で共鳴を持つ。この共鳴は、 方向に基板側の1次回折が開く波長( で与えられる)よりも少し長波長側にある。したがって、このモーは基板/金属界面を伝搬する伝搬型SPPsで、 方向の1次の逆格子ベクトルによる折り返しにより励起されるモーである。●でラベルされたモーはほとんど入射角依存性がなく、局在モー励起に対応することを示している。この局在モー励起によって、 がピーク構造を持っている。それに対して、 偏光に対する分散関係は大変シンプルである。透過率が極めて小さくなる波長域では、モーが2つしかない。一つは下に凸なモーで、▼でラベルされたモーと同じ特徴を持つことから、伝搬型SPPs励起に対応している。もう片方のモーは上に凸なモーで、弱い入射角依存性を持つ。このモーは伝搬型SPPsには対応しておらず、幅の広いモーであることからも、局在型SPPs励起に対応している。これらの分散関係の解析から分かるのは、極めて小さな が実現するのは垂直入射近傍で、2つのモーによるスペクトルの重なりが大きな場合であるということである。垂直入射角近傍の分散関係を詳細に見るために、-2°から+6°まで1°刻みで角度分解透過及び消光比スペクトルを計算した結果を図6(c)及び(d)に示す。入射角が+1°かつ波長が1355.4 nm近傍で、 が最小となり、その値は1.89×10–10に達することが分かる。ディップの深さは入射角+2°と+3°では浅くなり、+4°では再び極めて小さな値となる。すなわち、透過率ディップの深さは入射角0°から+4°の間で振動する特徴を有している。入射角が+6°では、ディップの深さは浅くなっていく。本文で示してはいないが はあまり強く入射角に依存しないため、消光比の変化は にほぼ依存する。消光比は が最小となる入射角+1°で最大となり、その値は3×109を超える。 偏光に対する電磁応答を特徴付ける固有モーを可視化するために、メタ表面の近接電場分布を計算で示す。透過率が極めて小さくなる波長近傍で、2つの際立った特徴がある(図5(a)の下向きの黒矢印で示されている)。極めて小さな透過率とともに、これら2つの特徴にも注目していく。計算した近接場分布を図7に示す。図7(a), (c),そして(e)は2つの空気孔の中点において 平面でスライスした電場分布を示す。また、図7(b), (d), (f)は第三層の中点において 平面でスライスした電場ベクトルの面内分布を示す。図7(a)及び(b)は が局所的にピークとなる波長1342nm(図5(a)の太線矢印)における電場分布を示している。電場は最上層の金属層と石英基板の界面に強く局在していて、伝搬型SPPsが励起されていることが分かる。このSPPsモーは垂直入射で励起されており、プラス 方向とマイナス 方向に伝搬する波の重ね合わせにより定在波となっている。図7(b)では対照的に伝搬型SPPs励起以外に主だった特徴はない。図7(c)及び(d)はそれぞれyz 平面及びxy 平面でスライスした波長1410 nmにおける電場分布を示しており、透過率が局所的にブローなディップ(図5(a)の破線矢印)を持つ。図7(c)から明らかなように、伝搬型SPPsは励起されていない。図7(d)では、電場が右のロッのエッジの近傍で増強しており、局在型SPPsが励起されていることを示している。左のロッもまた共鳴しているものの、右の共鳴に比べれば弱い。局在型SPPsが励起されているものの、場の強度は波長1342 nmの場合によりも弱い。これは、透過率が1342 nmでの値よりも小さいことに対応している。図7(e)と(f)は波長1355.65 nmにおける電場分布を示しており、透過率が大変シャープなディップを持ち、消光比が最大となる場合に対応している。図7(e)は(a)と類似した特徴を持ち、弱いものの伝搬型SPPsが励起されていること示している。図7(f)は右のロッだけが共鳴していることを示して、局在型SPPs励起を示している。これらの図から、透過率が極小となる場合には2つのSPPsが同時に励起されていることが分かる。これら2つのSPPsが透過現象においてどのような役割をしているかを明らかにするために、個々の相補的構造の透過スペクトルを計算する。図8(a)は最上層及び最下層の透過スペクトルを示している。図8(b)は相補的構造の各々の透過スペクトルを掛け合わせたスペクトルである。これらの図において、左及び右の縦軸は 及び に対するスケールを示している。波長1200 nmより長波長側において、 偏光に対するメタ表面の透過スペクトル(図5(a)の青線)は相補的構造88 情報通信研究機構研究報告 Vol.66 No.2 (2020)4 環境制御ICT基盤技術 —基盤から社会展開まで—
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