とプラズマの大循環を引き起こし、それに伴う巨大な電流が磁気圏から電離圏極域へと流入し電離圏プラズマを動かしている(Appendix I参照)。また、磁気圏に侵入したプラズマは循環の過程で加熱され、オーロラを光らせるプラズマが溜たまったプラズマシート、内部磁気圏、放射線帯といった領域を形成している。時々刻々と変化する太陽風に応答して、磁気圏の乱れが発生する。その代表的なものは、磁気圏の基本的なエネルギー蓄積・急解放現象「サブストーム」である(図1)。エネルギーが解放される時、電離圏へ流入する電流が強まるとともに、プラズマが磁力線沿いに極域に降下し、磁気圏夜側では地球方向に押し寄せる。降下電子が大気と反応して光を発したのがオーロラである。強いサブストームであるほど電離圏電流も強まるため、電離圏の乱れ(通信・測位へ影響)、ジュール加熱による大気膨張(低高度衛星の姿勢・軌道制御へ影響)につながり、加えて、特に極域では激しい地上磁場変動によって長い導体に誘導電流が流れ(Geomagnetically Induced Current: GIC)、電力システムの障害につながることがある。数〜数十keVの電子は、人工衛星の表面に蓄積し衛星を帯電させるが(これを表面帯電という)、オーロラ帯上空や尾部のプラズマ注入領域に低高度衛星や静止軌道衛星が居合わせてしまうと、衛星は強く帯電する。帯電値が閾しき値いちを超えて放電する際に、衛星の物理的障害につながることがある。太陽風エネルギーの流入が極めて大きくなると、磁気圏最大のじょう乱現象「磁気嵐」となる。強いサブストームが連発し電離圏に流入する電流が長時間にわたって強まるため、通信・測位、衛星運用、電力システムへ影響が出る可能性が高まる。極冠が拡大しオーロラ帯の緯度が下がってくるため(Appendix I)、中緯度域でもオーロラが見えることがあるが、同時に電離圏電流が強まっているため、中緯度域でもGICの影響が危惧されるようになる。磁気嵐に伴い放射線帯も変動する。放射線帯電子はエネルギーが高いため、衛星構体を突き抜け内部の部品等に蓄積する。これを深部帯電といい、表面帯電と同様、閾値を超えて放電する際に深刻な障害につながることがある。このように磁気圏は、多角的に我々の生活と関わっている。しかし、磁気圏は広大な空間であるため観測的に把握することが難しく、サブストームの発生メカニズムを含め未解明の部分が多い。本稿では、そのような磁気圏の把握、変動現象の解明及び予測を行うための磁気圏シミュレーションの研究開発について述べる。磁気圏は、太陽風をエネルギー源としながらも、その磁場は地球に由来するため磁力線を介して常に電離圏と相互作用しながら変動するシステムと捉えられる。当シミュレーションモデルはこれを数値的に記述するものである。図1 サブストーム発生時の磁気圏のイメージ(磁気圏MHDモデルで作成)極極地地球球方方向向にに押押しし寄寄せせるるププララズズママ磁磁気気圏圏かからら電電離離圏圏へへ電電磁磁エエネネルルギギーーのの流流入入オオーーロロララのの出出現現太太陽陽風風磁磁気気圏圏98 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)3 磁気圏研究
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