HTML5 Webook
105/238

磁気圏MHDシミュレーション2.1磁気圏MHDシミュレーションの概要磁気圏MHDモデルとは、磁気圏領域を理想電磁流体力学(ideal Magneto-Hydro-Dynamics: ideal MHD)方程式によって記述し、太陽風データを入力(上流側の外部境界条件)とし、電離圏2次元モデルを内部境界に置いて、磁気圏–電離圏(Magnetosphere-Ionosphere: 以下、M-Iと略)の時間変化を計算するものある。MHD方程式は以下のとおりである。 0  (1) p  (2)   (3) 0  (4)   (5) 0  (6) 12v1  (7)ここで、ρ:プラズマ質量密度、v:プラズマ速度、p:プラズマ圧力、e:プラズマエネルギー密度、γ:比熱比(理想MHD方程式系では5/3)、J:電流密度、B:磁場、E:電場である。磁気圏領域の内部境界は通常、2~3RE(RE:地球半径)にある。これは計算効率上の問題で、地球に近い領域では磁場が強いためMHD固有モードの位相速度が極めて大きくなり、CFL条件(Courant-Friedrichs-Lewy Condition。クーラン条件とも言う。)を満たすには時間ステップを極めて小さくしなければならなくなってしまうためである。電離圏領域については一般的に、  電流連続性:||0 (8)電離圏におけるオームの法則:∇∙Σ∙ (9)から得られるPoisson方程式 ∇∙Σ∙∇Φ||sin  (10)   (11)を解く(電離圏2次元モデル)。ここで、¦¦及び⊥の添字は、磁力線に平行及び垂直の意、Σは高度積分した電離圏電気伝導度(太陽日照による増大成分(太陽天頂角に依存)と、磁気圏からの粒子降下による増大を模した成分からなる)、Iは電離圏鉛直方向と磁力線のなす角度、Φは電離圏電場ポテンシャルである。M-I結合計算は一般的に、以下の手順で行われる。1.磁気圏内部境界(2~3RE)にて、磁力線に沿って電離圏に流出入する電流(沿磁力線(Field Aligned Current)という。以下、FACと略。)を算出する。2.この電流を、地球磁力線に沿って内部境界(2~3RE)から電離圏高度(1RE)へマッピングする。この際、磁力管収縮率のファクターを掛ける。得られたものが式(10)のj¦¦に相当する。3.式(10)(11)により電離圏電場を計算する。4.得られた電場を地球磁力線に沿って内部境界(2~3RE)に逆マッピングする。5.内部境界にて、式(6)を用い速度を更新、更新された速度と式(1)(2)(3)により他のプラズマ物理量を更新する。この手順のコンセプトはVasyliunas [1]に遡られ、Goodman[2]やAmm[3]によってMHDモデルに適用するために上記のような手順が提案された。現在の磁気圏モデルで電離圏部分も解いているものはすべて、この方法論を採用している。磁気圏モデルの開発は、1980年代後半に遡られる。初期は、大局的な太陽風−磁気圏−電離圏応答の研究[4][5]に始まり、計算機の発達とともに高解像度の計算が可能となったことで、様々な科学的知見が得られていった[6][7]。広大な宇宙空間に対して極めて限られた観測からは、時間変動と空間変動の分離が困難であり、なによりも全体の構造とダイナミクスを直接的に観ることができない。そのため、宇宙天気の基盤となる太陽地球系物理学は、情報が面的に集約される地上観測(地上磁場観測や電離圏観測)から上空の宇宙空間で生起することを推察することで構築されてきた。そういった基盤的理解の確認や検証、更なる知見を加えるなど、現在の我々の理解において磁気圏モデルが果たした役割は大きい。世界の主な磁気圏モデルを挙げると、OpenG-GCM[8]、BATS-R-US[9][10](開発主導:ミシガン大学)、LFM[11](現在の開発主導:JHU/APL)、GUMICS-4 [12](開発主導:フィンランド気象研究所)、そしてNICTにおけるモデル[13]–[15]がある。いずれのモデルも、定量性が不十分な場合や、定性的に現象を再現できない場合もあり[16][17]、日々改良が進んでいる。なお、米国では2000年代後半に太陽から大気圏までの様々な数値モデルを結合・統合するプロジェクトが始まっ2993-1 磁気圏MHDシミュレーションの研究開発

元のページ  ../index.html#105

このブックを見る