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レーションデータで、それぞれ、北半球磁気緯度55-80度及び60-80度に入る電離圏計算格子点での電離圏電流データを地上磁場変動に変換したものである。(2.1で述べたように、シミュレーションは内部境界が2-3REにあることに対応して電離圏を直に解くことができる緯度的な限界があるため、最低緯度を40度ではなく55度にしている。)図3(a)は冬至に近い2012年12月20日、図3(b)は夏至に近い2016年6月17日のものである。図3(a)において、例えば05:00UT, 07:40UT, 12:40UT頃などの急激な負の変動は、西向き電離圏電流の急増を反映しており、サブストームの発生を示している。改良前(青・水色)と改良後(赤・ピンク)を比較すると、改良により磁場変動の再現性が向上しており、サブストームをはじめ磁気圏変動の再現性が向上していると言える。図3(b)についても同様に、改良前(青・水色)と改良後(赤・ピンク)を比較すると、改良により再現性が向上していることがわかる。この高度化されたコードをベースに、リアルタイム計算システムを開発し[20]、現在、DSCOVR探査機によって得られるリアルタイム太陽風データを用いたリアルタイム磁気圏シミュレーションがNICTの高速計算システム上で稼働している。DSCOVR探査機はLagrange point 1(太陽と地球の間の重力安定点)で太陽風を観測しており、そこで観測された太陽風は約1時間で地球に到達する。つまりリードタイムは約1時間であるが、これに諸々の処理時間が加わり、リアルタイムシミュレーションの実質的なリードタイムは現在40分程である。補足として、図4に電離圏伝導度の非一様性を改良したコードでの計算結果を示す。書式は図3と同じである。磁軸の傾きと歳差の導入により再現性が向上することは既に見てきたが(図3の青と水色の線が赤とピンクの線へと改善)、伝導度非一様性の改良により再現性が更に向上していることがわかる(図3の赤とピンクの線から、図4の赤とピンクの線へと改善)。なお、このことは3で述べる展望にも関係している。2.4様々な応用リアルタイムの計算結果は、日々の宇宙天気予報で参照するとともに、様々な情報発信への活用も始めている。一つは衛星表面帯電である。大阪府立大学及びJAXAとの協力により、本シミュレーションと帯電計算モデルを組み合わせ、静止軌道領域をターゲットとして模擬衛星の表面帯電リスクをリアルタイムで評価するシステムを開発した[24]。帯電計算モデルは入力として電子とプロトンの密度と温度(Ne, Ni, Te, Ti)が必要だが、MHDモデルで得られる熱力学量は原理的にプラズマ流体のものであることが課題であった。そこで、シミュレーションデータと静止軌道衛星データとの比較解析を行い、シミュレーションデータからNe, Ni, Te及びTiを見積もる手法を開発した[24]。現在、この手法を用いて表面帯電のリスク評価を行っている。また、シミュレーションデータを用いてオーロラ出現予測マップを作成し、当研究室が運営するWebサイト「オーロラ・アラート(https://aurora-alert.nict.go.jp)」から公開を開始したところである(図5)。マップでは、はっきりと見えるDiscrete Aurora、ぼんやりと広がるDiffuse Auroraという代表的な2種のオーロラを描画している。展望このようにNICTの第4期中長期計画の期間(2016年度〜2020年度)には、主として、現実的な条件で計算可能なシミュレータ、リアルタイム計算システムの開発を行いながら、特に衛星帯電への応用に力を入れてきた。現在、こういった応用を進めるとともに、物理過程の記述の改良にも着手している。シミュレーション精度向上の鍵としていくつか課題がある中で、M-I結合の記述が重要であると考えている。その理由は以下のとおりである。磁気圏を構成する磁力線の根元は地球にあるため、太陽風−磁気圏における電磁力学的変動は磁力線を介して地球に伝えられる。この際、内部境界として存在するのが電離圏である。電離圏は、その名のとおり大3図5磁気圏シミュレーションから作成したオーロラ予測マップのWeb公開1013-1 磁気圏MHDシミュレーションの研究開発

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