気分子の一部がイオンと電子に電離して形成された領域であるとともに、地表に近いため磁場が強い。これにより(イオンと電子の大気分子との衝突・強い背景磁場・イオンと電子の質量差によって)、非等方的な電気伝導度を持つ領域となっている。すなわち、M-I系とは、完全電離気体系と強磁場弱電離気体系とが磁力線を介して情報交換する系であると俯ふ瞰かんされ、完全電離気体系に対して弱電離気体系であるということと、磁気圏との時空間スケールの違いにより、電離圏は単なる受動的内部境界ではなく能動的内部境界として磁気圏に働きかけるというアイデア及びそのプロセスを記述する理論が近年提出されている[25][26]。Nakamizo and Yoshikawa[27]により、この理論を裏付ける結果も得られている。地球電離圏に内在する伝導度の非一様性によって生じる分極場が、各々特徴的な電場変形をもたらすことを初めて示したものだが、問題は、太陽風−磁気圏の投影と考えられている、あるいは、それでは十分に説明できなかった電離圏電場構造が電離圏分極のみで再現されたことである。さらにMHD計算により電離圏分極が磁気圏にグローバルな非対称をもたらし、サブストームの時間発展も左右することが確認されている[28]。伝導度の非一様性により磁気圏が非対称構造を持つことは、同様のMHD計算でも示されていたが[29][30]、我々の結果はその背景にある物理機構を明らかにしたものである。また、M-I系における分極効果は、オーロラアークの発達などのメソスケール現象においては詳細に研究されているが[31]、磁気圏全体のダイナミクスに影響している可能性を示したのは初めてである。以上から、電離圏が能動的に磁気圏に働きかけるという考えはもっともらしいとの確信を得ているが、留意したいのは、上記結果は2.1で述べた現在広く採用されている電離圏モデルとM-I結合アルゴリズムによる結果であるということである。この従来の電離圏モデル及びM-I結合アルゴリズムを紐解くと、•電離圏モデル:FAC入力と伝導度分布に整合するように電場を算出する設計になっている。つまり電離圏電流が電離圏内に完全に閉じ込められている状況と等価、したがって分極場が最大限に生成され、FAC入力以外の領域では電流(電離圏起源のFAC)を出力できない。•M-I結合アルゴリズム:FAC(磁場から算出)を入力し、電離圏モデルで算出された電場によって速度のみを更新するため、前後での物理量保存則が成立しない。また、速度更新のもとになる電場も上述のように算出されたものである。となっている。現実の自然界では、有限なAlfven伝導度により、電離圏電流の一部は電離圏起源のFACとして流出し、それ以外の成分が分極場として顕れているはずである。さらに、各瞬間においてM-I間をつなぐFAC及び付随する物理量は、入射成分と反射成分の総和が見えたものとなっているはずである。したがって現実の物理過程に即したM-I系シミュレーションを行うには、これらを担保する新しい結合アルゴリズム[32]が必要であり、現在、この新アルゴリズムを我々のモデルに導入中である。これにより、FAC及び電離圏電場、そのフィードバックを含む磁気圏変動の再現性の向上が期待される。このような研究開発を進め、磁気圏予測の向上とともに将来のM-I結合モデルへとつなげていきたい。Appendix I. 磁気圏における磁場とプラズマの大循環=電離圏の駆動エネルギー太陽風エネルギーが磁気圏に流入するのはどのような時か?地球磁場は、南極がN極で北極がS極であることがポイントとなる(図A1)。太陽風磁場が南向き成分を持つと(図A1(a))、①磁気圏前面で太陽風磁場と地球磁場は反平行となる。②反平行の磁力線が接近すると、磁力線の繋つなぎ替えが起こり、③結果、本来は両端が電離圏にある「閉じた磁力線」から、一方の端が太陽風磁場と繋がった「開いた磁力線」ができる。④開いた磁力線は太陽風とともに尾部へ運ばれ、⑤尾部では運ばれてきた南北の「開いた磁力線」が蓄積し互いに近づいてくる。⑥そこでも磁力線は反平行であるため繋ぎ替えが起こり、南北の「開いた磁力線」から「閉じた磁力線」ができる。⑦閉じた磁力線は磁場が本来の形に戻ろうとする作用により地球の方へ戻ってくる。太陽風中にはプラズマも存在するため、磁力線の繋ぎ図A1.(a)太陽風エネルギー流入による磁気圏内の磁場・プラズマ大循環 (b)電離圏部分 (c)観測で捉えられた電離圏へ流入する電流、駆動される電離圏プラズマ((CC))電離圏へ流⼊する電流、駆動される電離圏プラズマの動き(等値線)北極上空からの俯瞰図http://ampere.jhuapl.edu((bb))((aa))102 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)3 磁気圏研究
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