まえがきイオノゾンデ観測は、電離圏電子密度構造の観測手段の一つとして、古くから世界中で広く行われてきた。その観測原理は、短波帯電波の周波数を掃引させながら上空に送信し、送信電波が電離圏に反射されて地上に戻ってくるまでの時間(遅延時間)を計測するものである。通常、観測データは、横軸を周波数、縦軸を見かけの高さ(遅延時間に光速を乗じて算出される距離の半分)とした画像で信号強度を示すもので、イオノグラムと呼ばれる。イオノグラムの電離圏エコーの周波数・見かけの高さを見ることで、電離圏の見かけの電子密度プロファイルの情報を得る仕組みである[1]。日本におけるイオノゾンデ観測は1931年に始まり、世界的にも早い段階で、本格的に定常観測が開始された。長い歴史の中で、観測機器やシステムは常に進化している[2]。観測開始当初は、4人がかりの手動作業でアナログデータを取得する観測であったが、1950年代には全てが自動化され、1970年代後半には、送信部分を除き真空管が半導体に置き換わった[2][3]。観測システムの観点では、1970年代にはPCが活用されるようになり、1990年代にはフィルムを用いたアナログデータがデジタルデータに置き換わった[4][5]。さらに、1990年後半には、インターネットの普及により地方観測施設のデータ転送が可能となり、観測施設が無人でも運用が可能となった[4]-[6]。データの質も向上し、当初は1ビットのデジタルデータだったものが2001年には8ビットデータとなり[7]、2017年には16ビットデータとなっている。このイオノゾンデ観測の歴史の中で、最新型の観測システムが、2016–2017年に導入されたVIPIR2(Vertical Incidence Pulsed Ionospheric Radar 2)である。VIPIR2は米国のNOAAで開発されてきたものであり、受信アンテナのアレイ構成によりマルチチャンネル受信が可1イオノゾンデによる国内電離圏定常観測の長い歴史の流れの中で、最前線として設置されたVIPIR2について、その概要と観測の現状をまとめた。VIPIR2の特徴の一つは、受信アンテナのアレイ構成によりマルチチャンネル受信が可能なことである。これにより、これまで定常観測の課題であった電波モードの分離が可能となり、電離圏変動をよりリアルタイムに正確に捉えることができるようになった。本稿では、VIPIR2の概要について示した後、電波モード分離の詳細について示し、VIPIR2によって捉えられた電離圏の短時間変動と電波到来方向の推定について紹介する。また、電波モード分離されたイオノグラムと機械学習の手法を用いた自動読み取り手法の改善についても取り上げる。This paper summarizes the outline of VIPIR2 installed as the forefront in the long history of routine observation of the domestic ionosphere by ionosondes. One of the features of VIPIR2 is that multi-channel reception system is available because of its antenna array configuration. As a result, it has become possible to separate radio modes, which has been a problem in routine observation. In this paper, we provide the overview of VIPIR2, the details of the radio mode separation, and other new results of VIPIR2 observation. One of the focus is on an improvement of automatic scaling method of mode-separated ionograms, which is developed using machine learning tech-nique.2 電離圏研究2Research for the Ionosphere2-1 VIPIR2による国内電離圏定常観測2-1Ionospheric Observation by VIPIR2西岡未知 前野英生 山川浩幸 津川卓也NISHIOKA Michi, MAENO Hideo, YAMAKAWA Hiroyuki, and TSUGAWA Takuya52 電離圏研究
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