めていくためには、どのようにして宇宙環境からのリスクを把握し、それに備えるのかということが重要な課題となる。本研究ではこのような帯放電による障害原因となる磁気圏に存在する高エネルギー電子帯「電子放射線帯」の振る舞いを再現/予測するモデルの開発を行い、衛星障害のリスク管理に有用な情報提供を実現することを目的とする。以下では、2 電子放射線帯の概要、3 電子放射線帯予測モデルの概要、4 シミュレーションテストの結果、5 今後の課題、最後に6 まとめについて説明する。電子放射線帯の概要2.1構造磁気圏内部には高エネルギー電子が捕捉されている電子放射線帯と呼ばれる領域がある(図2)。地球を中心に二重のドーナツ状の構造をしており、内側の構造を「内帯」、外側の構造を「外帯」と呼ぶ。内帯は地表面から1−2RE(RE:地球半径)の範囲内に分布しており、約800 keV程度のエネルギー(光速の90%以上の速度)を持つ電子が多く存在している。一方で、外帯は約3REから静止軌道(6.6RE)以上にまで広がっており、数keVから数MeVの電子で構成されている。内帯に分布する電子のフラックス量は比較的安定しているが、外帯電子のフラックスは通常時に比べて100倍から1,000倍に増加することが頻繁に起きる。図3は日本の科学衛星「あらせ」によって観測された電子放射線帯外帯の時系列変化を表している(DOI: 10.34515/DATA.ERG-00001)。横軸が時間を示し、2018年1月から1年分のデータがプロットされている。縦軸で表されているL値は、地球からの離れ具合を表している。(L値の詳細については2.3で概説する)。色は電子フラックス(E=1.5-2.2 MeV)の大きさをログスケールで表している。この図からわかるように、外帯の中心付近では数日の間で100倍以上のフラックス変化が観測されていることがわかる(例えば80日、240日付近)。2.2変動要因磁気圏中の高エネルギー電子の環境は、太陽面上のコロナホールから吹き出る高速太陽風や、太陽フレアに伴うような太陽コロナ質量放出の影響を受ける。これらの影響を受けて磁気圏中には様々な物理現象が引き起こされ、放射線帯電子の生成や消失の原因となっている。図4はMiyoshi et al. (2018)[1]を参照し、放射線帯電子の生成プロセスの概要をまとめたものであ2図2電子放射線帯構造の概略図 内側の内帯と外側の外帯に分かれている。内帯は比較的安定している一方で、外帯は磁気嵐が起こると大きく変動する。!"#$%&'(),(+-./0)12324!+#$56789:; <=>?@ ; A=>#$%&'()*(+ #$56789:1BCC <=>DEF3GDEHDE2図32018年に日本の科学衛星「あらせ」によって観測された高エネルギー電子のフラックス分布(E=1.5-2.2 MeV) L値が3から7付近にまで広がっていて領域を外帯と言う。L値が3以下で比較的フラックスが小さい領域はスロットと呼ばれており、これより下のL値の領域が内帯となる。図中では主に外帯が示されており、太陽風の影響を受けて大きく増減を繰り返す。外帯スロット電⼦フラックス図4放射線帯電子が生成される過程の概略 磁気圏で生じる様々な過程を経て生成される。背景電磁場磁気圏尾部からのプラズマ輸送熱的プラズマ環電流を構成するプラズマ放射線帯電⼦磁気流体的な電磁波動径⽅向拡散熱的プラズマを規定プラズマ中の電磁波特性を制御加速相互作⽤対流加速局所加速ピッチ⾓散乱<10 eV100 eV1 keV10 keV100 keV1 MeVL=4L=6106 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)3 磁気圏研究
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