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る。磁気流体的な物理過程で生じる動径方向拡散という過程や、プラズマ運動論的性質の下で現れる局所加速やピッチ角散乱などを経て、放射線帯電子は生成される。また電子に作用するこれらの物理過程は低エネルギーのプラズマによって制御されており、放射線帯電子生成の物理過程をさらに複雑にしている。図4に示されるような幅広いエネルギーや空間スケール中での物理過程が相互に作用しながら放射線帯電子が生成される。一方でこれらの物理過程は電子を加速するだけではなく減速させる作用もあり、磁気圏が荒れた際に常に放射線帯電子が増えるとは限らない。Reeves et al. (2003)[2]によると、磁気圏が同レベルで荒れた267例のイベントを比較した結果、約50%のイベントで外帯放射線帯電子のフラックスが増加、約20%のイベントで減少、残りの30%のイベントではフラックス量の変化が見られなかったという結果が示された。これは放射線帯電子の加速・消失の割合は磁気圏の荒れ具合だけでは決まらないことを示唆している。複数の物理過程が磁気圏内で同時に発生し、これらのバランスによって電子フラックスの変動量が決まると考えられる。このような磁気圏中の放射線帯電子フラックスの変化を予測する一つの方法は、多数の放射線帯電子の運動を正確に追跡することである。2.3磁気圏内での高エネルギー電子の運動放射線帯電子の運動は3つの特徴的な周期運動に分類される。図5に示されるように、これらはラーモア運動、バウンス運動、ドリフト運動と呼ばれ、それぞれ周期と時間スケールが異なり、特徴的な運動をする。これらの運動は3つの断熱不変量に関係している[3]。ラーモア運動に対しては第1断熱不変量   (1)が定義される。ここで は背景磁場に対して垂直方向の運動量、Bは磁場強度、 は電子の静止質量を示す。背景磁場に対して平行方向の運動量を|| とすると、 ||/  (2) ||cos  (3) sin  (4)として、全運動量pとピッチ角αが定義される。ピッチ角とは背景磁場に対して運動量ベクトルがなす角度を意味している。また、平行方向の運動量を用いて、以下のように第2断熱不変量が定義される。 ∮||  (5)これはバウンス運動周期中での積分を意味し、dsは磁力線に沿った方向の微小空間要素を示す。第3断熱不変量は地球を周回するドリフト運動に対して定義される。 ∮  (6)ここで は運動量ベクトル、 はベクトルポテンシャル、 は粒子軌道上の微小空間要素を示す。周回するドリフト運動が閉じない場合は、第3断熱不変量は定義されない。第3断熱不変量への運動量からの寄与を無視すると、 ∮∙  (7)となり、第3断熱不変量は閉じた粒子軌道に囲まれた磁気フラックスに相当する。ここで、閉じた粒子軌道で描かれる球殻をLシェルと呼ぶ。Roederer (1970)[4]ではこの磁気フラックスを不変量L*として以下のように定義している。 ∗||  (8)ここで は地表赤道面付近の磁場強度を示す。これはダイポール磁力線の赤道面半径距離を地球半径で規格化した値に近似される(/ )。第3断熱不変量に関するより詳しい議論は参照文献[5]を参照されたい。図5 放射線帯電子の特徴的な三つの運動磁⼒線磁気ミラー点反射ラーモア運動バウンス運動ドリフト運動磁⼒線の周りをらせん運動磁⼒線に沿った往復運動磁⼒線を横切る周回運動1073-2 放射線帯粒子シミュレーション

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