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法である。これは、追跡している荷電粒子の電磁場への寄与が充分小さい場合に成立する。放射線帯電子数は低エネルギー側の荷電粒子数より圧倒的に少ないため、この近似を適用することができる。磁気圏を想定した電磁場を何らかの方法で求め、この中での電子の運動を追跡し、電子放射線帯のフラックス変化を再現することが、テスト粒子手法を用いた放射線帯電子シミュレーションの基本的な考え方となる。3.2旋回中心近似荷電粒子の運動は上述した荷電粒子の運動方程式を解くことによって得られる。磁気圏のような不均一磁場構造の中では、図5に示したようなラーモア運動、バウンス運動、ドリフト運動に分類され、それぞれ異なる時間スケールの周期と軌道を持つ。これらの運動を近似無しに記述するためには、数ミリ秒の周期を持つラーモア運動を解きつつ、ドリフト周期以上の時間スケールを計算する必要がある。しかしながらこれは計算量が膨大となると同時に、時間積分時の数値誤差の蓄積により軌道精度が低下する。この問題点を避けるため、本研究では「旋回中心近似」を用いることによって、磁気圏中での放射線帯電子の軌道を追尾する。旋回中心近似とは、ラーモア運動の旋回中心点を追跡する近似方法であり、ラーモア運動の軌道を無視し、電子旋回中心のバウンス及びドリフト運動を追跡する。旋回中心近似は、ラーモア周期が充分短く、円運動の半径が不均一磁場の勾配スケールより充分小さい場合に適用される。放射線帯電子のラーモア運動の周期は数ミリ秒のオーダーで、バウンス、ドリフト運動より充分短い。また、ラーモア運動の旋回半径は、   (14)で定義される。ここでv は背景磁場に対して垂直方向の速度を示す。比較的磁場の弱い静止軌道上の磁場強度でも放射線帯電子の運動半径は数十km程度以下であり、地球半径の10倍以上(約6万km以上)の空間スケールを持つ磁気圏中では十分小さいとみなされる。このことより磁気圏中での電子の運動は旋回中心として近似可能である。また、旋回中心近似の下では、第1断熱不変量が常に保存される。本研究ではこの旋回中心近似を基にしたテスト粒子モデルを用いて数値モデルを開発し、放射線帯電子フラックス分布の変動を再現する。3.3経験/物理結合モデルの概要本研究は複数のモデルを結合することで、放射線帯電子フラックスの変動を再現することを目的としている。図6は基本的なモデルとデータの流れを示している。モデルへの入力データとして太陽風観測もしくは太陽風シミュレーションから得られるデータを与え、線形回帰モデルや深層学習など過去の観測データから得られる経験的なモデルを用いて初期のフラックス分布を推定する。次段の経験/物理モデルでは、テスト粒子モデルを中心にして、複数の電子散乱モデルのシミュレーションを行う。各テスト粒子に「重み」を与えることで前段から与えられるフラックス分布を再現する。ここで「重み」とは、各テスト粒子が代表する電子数に相当する。最終段のモデルでは、前段で得られたフラックス分布を経験磁場モデルの中に構築(マッピング)する。フラックス分布は第3断熱不変量に近似されるL値、電子の運動エネルギー及び赤道ピッチ角の3次元空間上で定義したものが前段から与えられ、これを再現するような空間3次元フラックス分布を推定する。上記のようなプロセスを経て、太陽風データから電子フラックスの3次元空間分布を推定する。以下では、このモデルの中核を担う、(a)テスト粒子重み付け手法、(b)動径方向拡散モデル、(c) 3次元展開手法について言及する。図6放射線帯電子変動を予測・再現するためのモデル構成の概略図 観測やシミュレーションによって得られた太陽風データを基に駆動する。経験モデルによる境界条件の決定、経験/物理モデルによるフラックス発展、3次元展開モデルによって構成される。シミュレーション観測線形回帰モデル、機械/深層学習等初期フラックス推定太陽⾵データテスト粒⼦モデル・動径⽅向拡散モデル・ピッチ⾓拡散モデル・加速モデル、etc…フラックス発展推定(ダイポール磁場近似)フラックス分布を3次元空間への展開⼊⼒データ経験モデル経験/物理モデル経験/物理モデル放射線帯電⼦変動予測モデル経験/物理モデル経験/物理モデル1093-2 放射線帯粒子シミュレーション

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