ている。今後の課題4.1外部境界条件の推定放射線帯電子の源は磁気圏尾部から供給され、動径方向に輸送されることで高いフラックスを持った高エネルギー電子が生成される。このため、外部からどの程度の電子が供給されるのかを推定することが予測には不可欠である。外部からの供給源として重要なのが、磁気圏尾部のプラズマシートである。平均的にはプラズマ温度が数keV程度、密度が1/cm3程度以下となっている。これらは太陽風条件によって変化することが知られており、Tsyganenko and Mukai (2003)[16]によって経験的なモデルが提案されている。このモデルを利用することで、プラズマシート中の熱的プラズマ密度と温度を基にしたフラックス分布j(E,αeq)を外部境界条件として与えることが可能になる。また、地球磁気圏全体を再現するグローバルMHDモデル(プラズマの挙動を流体として表現し巨視的な振る舞いを再現することができるモデル)と結合させることで、プラズマシートのプラズマ温度と密度を推定することも可能である。一方で、実際には100keV以上の高いエネルギーを持つ非熱的な電子も外部境界付近には存在する。Tsyganenko and Mukai (2003)の経験モデルやグローバルMHDモデルは熱的なプラズマシートを推定することには適しているが、非熱的な電子の成分を再現することができない。しかしながら、このエネルギー帯の電子は、第1断熱不変量を保存しながらL値が4付近まで輸送されると、1MeVに達するエネルギーを得ることができる。動径方向拡散による放射線帯外帯変動の寄与を調べるためには、このエネルギー帯の電子分布推定が重要となる。今後は、熱的な成分を推定する外部境界条件モデルとの結合に加え、非熱的な成分を推定するモデルとの結合、もしくは新規開発が必要となる。4.2局所散乱機構の推定ここで示したように、大局的な散乱機構である動径方向拡散モデルの開発を先行して行っているが、次のステップとして磁気圏内に発生する電磁波による局所的な散乱機構を再現するモデルとの結合を行う。近年の研究において、放射線帯外帯の中心付近(L=4 - 5)で発生するホイッスラー波が放射線帯電子を生み出すために重要な役割を担っていることがわかってきた。この電磁波は、放射線帯を構成する電子と共鳴することで高いエネルギーを持った電子を生み出す。波動振幅が小さい場合、準線形的なプロセスを経て、エネルギーとピッチ角が変化する。これにより、比較的ピッチ角の小さい電子(磁気ミラー点を低高度に持つ)は電離圏へ降り込み、中性大気との衝突でエネルギーを失い放射線帯から消失する。一方で、振幅がある程度大きいと非線形的な急加速が起こる(e.g.[9][10])。Saito et al. (2012, 2016)[17][18]はホイッスラー波を原因として大気への降り込み消失や位相捕捉による急加速機構をテスト粒子モデルで再現し、近年では日本の科学衛星「あらせ」によって観測されたフラックス変動を再現することに成功している[19]。ここで用いているモデルを局所的な散乱過程を再現するモデルとして利用する。テスト粒子モデルで構築されていることから、同モデルを基盤としている動径方向拡散モデルと親和性が高く、今後これらのモデルを結合して物理モデルの高度化を実現する。まとめここではリアルタイム運用を視野に入れた放射線帯電子シミュレーションを行う数値モデルについて概説を行った。テスト粒子モデルを基盤としており、放射線帯電子個々の軌道や運動量に物理過程を作用させる45図10図9で得られたフラックス分布を3次元に展開したフラックス分布 ZGSM=0上でのフラックス量を水平平面上に、YGSM=0上のフラックス量をX-Z面に投影している。色はログスケールで示している。灰色の線は磁気圏の磁力線を示している。XGSM[RE]YGSM[RE]ZGSM[RE]t = 0 hrsXGSM[RE]YGSM[RE]ZGSM[RE]t = 48hrs電⼦フラックス#/cm2/keV/s#/cm2/keV/s電⼦フラックス112 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)3 磁気圏研究
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