はじめに地球半径の約6.6倍（高度約3万6千 km）の赤道上空の円軌道の公転周期は、地球の自転周期と同じ約23時間56分である。この軌道上の人工衛星は、地上から静止して見えることから静止衛星と呼ばれ、その軌道は静止軌道と呼ばれている。この軌道特性を活いかし、通信・放送・気象観測等、様々な実利用目的の人工衛星が静止軌道に打ち上げられており、2021年1月4日現在、534機の人工衛星が静止軌道で運用されている[1]。静止衛星は我々の生活に欠かすことのできない社会インフラとなりつつあり、予期せぬ機器の障害・故障に伴う人工衛星の機能損失や制御不能状態は、サービスの中断をもたらすとともに、スペースデブリの増加や他の静止衛星との電波干渉等の問題につながる危険性がある。宇宙空間では、太陽活動等に起因する宇宙環境変動によって人工衛星に様々な不具合・障害が発生するリスクがあるため、人工衛星の設計段階で、投入軌道や軌道上の寿命に基づく対策を施している。さらに、軌道投入後の安全・安心な衛星運用を実現するためには、衛星周辺の宇宙環境の現況やその後の推移予測の情報を元に、障害リスクを回避する衛星運用を実施したり、万が一人工衛星に不具合・障害が発生した場合の即時対応の際には、宇宙環境情報等を活用した原因の即時分析を実施したりすることが必要となる。このようなレジリエントな衛星運用には宇宙環境の監視とその推移予測、リスク評価等の宇宙天気予報が重要な役割を担っている。本稿では、静止軌道の宇宙環境の監視・予測の重要性と、情報通信研究機構（NICT）における具体的な取組について述べる。1静止軌道では通信・放送・気象観測等様々な実利用目的の衛星が運用されている。一方、静止軌道の宇宙環境は太陽風の影響等によって大きく変動し、人工衛星の不具合や障害等の原因となることが知られている。そのため、安全・安心な衛星運用の実現には宇宙環境変動の現況や予測情報を用いたリスク回避や、障害発生時の迅速な状況分析・対応が必要となる。ここでは、静止軌道における宇宙環境変動とその衛星障害リスクや、我々が取り組んでいる静止衛星の高エネルギー粒子観測データを用いた静止軌道の宇宙環境の監視、数理モデルを用いた将来予測、個別の衛星の材料や形状を考慮して人工衛星の帯放電リスクを推定・予測するシステムSECURESの開発、静止軌道での宇宙環境計測の将来検討の概要について述べる。In geostationary orbit, satellites for various practical purposes such as communication, broad-casting, and weather observations are operated. On the contrary, it is known that malfunctions and failures of satellites in geostationary orbit sometimes happens due to the space environment distur-bances driven by the solar wind. To realize safe and secure satellite operation, nowcast and forecast information of space environment needs to be used for avoiding risks of satellite anomalies and quick diagnosing and responding in the event of satellite anomaly. We will introduce the space en-vironment disturbances and its risk of satellite anomalies, monitoring of the space environment us-ing high-energy particle observations, forecast of space environment using mathematical models, the development of SECURES, a system for estimating and predicting the risk of satellite charging/discharging in consideration of the material and shape of the satellite, and the future plan of space environment monitoring in geostationary orbit.3-3 静止軌道の宇宙環境監視・予測の重要性3-3Importance of Monitoring and Forecasting of Space Environment in Geostationary Orbit長妻 努 坂口歌織NAGATSUMA Tsutomu and SAKAGUCHI Kaori1153 磁気圏研究
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