HTML5 Webook
124/238

は高エネルギー陽子センサー(SEDA-p)と高エネルギー電子センサー(SEDA-e)で構成されている。SEDAはひまわり8、9号の東の側面に取り付けられており、荷電粒子の旋回運動の関係で、地球側から旋回してくる陽子、地球の外側から旋回してくる電子を計測している。SEDA-pの計測チャンネルの概念図を図2に示す。SEDA-pはチャンネルごとにセンサーの上部と下部に取り付けられた2枚の半導体検出器で高エネルギー陽子を検出する。上部検出器の前段の金属シールドの厚みを変えることで検出するエネルギー範囲を変えている。SEDA-pは数MeV以上の電子フラックスにも感度があり、高エネルギー電子フラックスがノイズとして混入したフラックス変動が観測される[12]。SEDA-eは金属板に侵入した荷電粒子(主に電子)を電流として計測する装置である。電子が金属板に侵入できる厚みはエネルギーに依存するため、厚みの異なる8つの金属板の間隔を空けて配置することで、0.2~4.5MeVのエネルギーを計測する。このセンサーは、高エネルギー陽子フラックスの混入が無いことが特徴であるが、観測されるフラックス値が小さい場合にバイアス電流の差し引きの誤差により、人工的な日変化やマイナスの値を示すことがある。また、4.5MeVの電子を検出するチャンネル(Ch.7)は静止軌道のフラックスに対する十分な感度が無く、2MeVの電子を検出するチャンネル(Ch.6)もフラックスが増大する期間を除くと、十分な感度がない[12]。NICTでは、10分ごとに気象庁からSEDAデータを収集し、これを5分平均値のテキスト形式及びCommon Data Format (CDF)形式のデータに変換・蓄積したものをWeb上でHimawari/SEDAデータベースとして公開する(https://aer-nc-web.nict.go.jp/himawari-seda/)とともに(図3)、準リアルタイムのQuick Look Plotを表示し(図4)、日々の予報業務等に活用している。静止軌道の宇宙環境予測・リスク評価4.1放射線帯電子予測放射線帯の変動による衛星障害のリスクを軽減するためには、その変動を事前に予測することが重要である。例えば通信衛星 Galaxy15は、2010年にトランスポンダーがアクティブなまま衛星が地上からのコマンドを受け付けない事態に陥った。この事故では電波を出しながらコントロール不能な状態に陥り、そのまま軌道を外れたため他の衛星へも危険をもたらした[13]。このような場合、宇宙環境が悪化すると予測された時に、事前に安全な運用に切り替えることができれば、衛星障害発生時のリスクを軽減できたかもしれない。現在、我々は数日先までの静止軌道における電子フラックス及び24時間フルエンスの予測モデルを開発しウェブサイト「放射線帯予報」で公開している。図5にウェブサイトのイメージを示す。予測手法は、多変量自己回帰モデルとカルマンフィルタを組み合わせた時系列モデルで、モデルへの入力にはDeep Space Climate Observatory (DSCOVR) 衛星による太陽風の観測値及び京都大学地磁気世界資料解析センターが提供している地磁気のDst指数等を用いている。予測対象は、米国の静止気象衛星GOESが位置する経度135~75度付近の2 MeV以上の電子の推移[14]と、日本の静止気象衛星ひまわり8号が位置する経度140度の1MeVの電子の推移[15]、また、日本のジオスペース探査衛星ERGが飛翔する中軌道の数 MeV電子の推移[16]である。放射線帯予報ウェブでは、これらの予報結果を随時更新し提供している。4.2SECURES宇宙環境予測モデルの高精度化は進みつつあるが、その一方で衛星周辺の宇宙環境の状態が同じであっても、人工衛星自身の材料や形状等の違いによって、衛星の表面帯電・深部帯電に起因するリスクは異なる。そのため、衛星運用担当者にとっては、汎用的な宇宙環境の予測情報のみでは、自分達が運用する個別の衛星のリスク評価・判断は難しい。そこで、他の研究機関との協力の下、個別の衛星の材料や形状を考慮して人工衛星の帯放電リスクを推定・予測するシステムとして、Space Environment Customized Risk Estimation for Satellites (SECURES)を開発している[17]。SECURESの基本コンセプトは宇宙環境を予測するモデル・シミュレーションと、衛星の材料・形状モデルに基づきある宇宙環境下における表面帯電、深部帯電を推定する帯電ツールを組み合わせて、個別の衛星の帯電リスクを推定するものであり、静止衛星用のシステムが開発されている。SECURESはグローバル MHDシミュレーションと衛星表面帯電モデルを結合した表4図5 放射線帯予報ウェブサイト画面118   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)3 磁気圏研究

元のページ  ../index.html#124

このブックを見る