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面帯電モジュール、放射線帯モデルと衛星深部帯電モデルを結合した深部帯電モジュールで構成されている[18]。現在、仮想的な人工衛星の材料・形状モデルを用いた静止軌道の表面帯電に伴うリスク推定・予測を行うSECURES Webサイトの試験公開の準備を進めている。静止軌道の宇宙放射線・帯電量計測の将来計画             大気の庇ひ護ごを受けない宇宙空間を飛しょうする人工衛星は、宇宙環境変動による誤動作や不具合が発生するリスクと常に隣り合わせで運用される。特に前述の様に静止軌道衛星は、放射線帯やサブストーム、太陽高エネルギー粒子によるリスクに常に曝さらされている。このリスクを軽減、回避するためには、衛星近傍の宇宙環境を定常的に計測し、具体的な対処を促すための予報・警報を発信し、事業者が対応するための時間を確保する必要がある。環境と同時に衛星の帯電状況等を常に監視することが可能になれば、宇宙環境変動に対する衛星固有の状態変化を直接的に把握すること、また、衛星設計標準にその結果を反映して、宇宙環境変動に強い衛星を設計する指針を得ること等が期待できる。そこで、静止衛星の宇宙環境変動に対する抗たん性の向上を目的として、放射線帯電子・太陽高エネルギー粒子・銀河宇宙線を測定する衛星搭載センサーと、衛星材料の帯電状態を監視する内部帯電センサーの開発に着手している。<電子線センサー>現在の宇宙天気予報では、2MeV以上の電子線の積算値を基準として現況把握と予報を行っている。放射線帯電子フラックス増大と衛星障害の対応関係等から、MeVエネルギー帯の電子線が衛星構体を貫通して蓄積し、衛星構体内の帯電(深部帯電)の原因となることが懸念されているためである。しかしながら、衛星構体を貫通する電子線のエネルギーは衛星構体の厚さに依存することから、衛星構体の厚みによっては如何なるエネルギー帯の電子も表面帯電や深部帯電等の衛星不具合に寄与し得る。今後、これらの可能性を考慮した衛星障害発生のリスク評価を行うためには、幅広いエネルギー帯の電子線を計測する必要がある。そこで、数十 keVを計測下限値とし、放射線帯電子が存在する5 MeV程度まで計測可能な電子線センサーを宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同開発し、静止軌道衛星への搭載を目指す。<陽子線センサー>陽子線に関する宇宙天気予報の基準は10MeV以上のエネルギーを持つ陽子線の積分フラックス値である。10MeV以上の陽子線の増大は、人工衛星の不具合発生が懸念されるのみならず、電離圏の乱れ(極冠吸収)を発生させる原因にもなっており、通信・放送・測位等への影響も懸念されている。大規模太陽フレア発生時は、エネルギーが100MeV以上の陽子線が急増することがある。これはシングルイベント効果やトータルドーズ効果により衛星機器の誤動作や寿命短縮の要因であるとともに、航空機高度における放射線被ばくの原因となる。エネルギーが高いほど地表に近い高度への影響度が大きいことから、地上等への影響を評価するには1GeV程度の陽子線の計測が必須である。そこで宇宙天気予報基準に合致し、かつ、陽子線による通信・放送・測位・被ばく等の影響評価に資するデータを取得するため、10MeVから1GeVまでのエネルギーを持つ陽子線を計測可能な装置をJAXAと共同開発中であり、電子線センサーと共に静止軌道衛星への搭載を目指している。<内部帯電センサー>上記で記述したエネルギー帯の電子線及び陽子線の一部は、人工衛星材料内部に侵入し帯電するため、それを起因とした静電放電による不具合を発生させる。これまで国内では、表面電位が計測可能な装置の開発が行われてきた。しかしながら、帯電材料が衛星不具合の原因となるのは、耐電圧を超えて放電した時であり、放電の発生を予測するには表面だけではなく材料内部を帯電の状態を計測する技術を確立する必要がある。内部帯電を計測する技術は既に地上実験装置として開発されているため[19]、今後、その装置を宇宙用に改良し、実宇宙空間で材料内部の電荷分布及び電荷総量が計測可能な電位計を、東京都市大学と共同開発する予定である。帯電計測装置を電子線・陽子線センサーを静止衛星に同時に搭載することができれば、環境変化とそれに追随する衛星への影響を直接評価することが可能となる。2021年現在、我が国の宇宙天気予報は、米国の気象衛星GOESが計測している宇宙放射線のデータを基準として利用している。しかし、米国上空と我が国上空の宇宙環境には差異があり、我が国の社会インフラを担う人工衛星の保全のためには、我が国の経度域の静止軌道の状況を把握する必要がある。3で紹介されている静止気象衛星ひまわり8号・9号搭載の宇宙環境データ取得装置(SEDA)は、予報業務で参考情報としているが、ハウスキーピング目的で搭載されているため、電子線・陽子線ともに計測エネルギー範囲と精度が十分とは言い難い。そこで、上記の様な宇宙天気予報及び人工衛星保全のために利用可能な計測装置を開発し、我が国の次期静止軌道衛星に搭載することで、我が国上空の宇宙天気の状況監視及び予報の高度化を51193-3 静止軌道の宇宙環境監視・予測の重要性

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