影響によるもので2020年に限らず、毎年同じ傾向が現れることが知られている(Russel-McPherron効果)[6]。図3のグラフの横軸のラベル下の括弧内の数字は、その月のアラスカ地域の平均日陰時間を示す。また、緑色の棒グラフの高さは、アラスカの日陰時間帯にオーロラが出現した日数を示す。観測者のいる時間帯が昼の場合、太陽光の影響でオーロラを見ることはできない。特にオーロラ帯が位置する緯度では、高緯度であるために夏至前後約4か月間(5〜8月)は白夜期となり、オーロラを観測することができない。太陽が沈んでいる時間が長い冬はオーロラを観測できる時間も長くオーロラ観測に最適なように思われるが、先述したRussel-McPherron効果や冬の寒さを考えると、オーロラ観測に最適のは春分の前・秋分の後の時期となる。予報モデルと精度4.1数時間先の予報オーロラの主なエネルギー源は地球磁気圏内に侵入する太陽風であり、特に太陽風の電場とAL指数には強い相関関係があることが先行研究により示されている[7]。2021年現在、太陽風のリアルタイム観測を行なっている人工衛星はACEとその後継機のDSCOVRのみである。これらの人工衛星は、地球から太陽方向に約150万km離れた太陽と地球のラグランジュ点L1で太陽風プラズマ、磁場等を常時計測している。太陽風はL1地点を通過後、磁気圏前面に到達するまで数十分〜1時間程かかる。さらに太陽風が地球磁気圏に侵入しオーロラの明るさや形状に変化をもたらすに至るまでには数十分〜1時間の時間を要する。オーロラアラートでは、これらの時間差と太陽風とAL指数の相関に基づく経験モデルを利用して、数時間先のAL指数を計算している。本システムで利用している多変量自己回帰モデルを式(1)に示す。(1)Yは時系列ベクトル、A(n)は回帰次数nの係数行列、vはホワイトノイズベクトルである。mは最大回帰数、kは変量の数である。Y(t) = [y1(t), ⋯ yk(t)]T に予測変量であるAL指数と説明変量である太陽風速度や磁場等のパラメータの時系列データを入力することで、直近のデータから未来が推定できる。図4にAL指数の予測値と観測結果の比較を示す。この例は、2020年11月1日13:10 UT以前の観測値を黒線、予測計算結果を赤線、実際の観測結果を黒い破線で示す。この予測計算では30分後の13:40 UTにアラートレベルが3になることを予報している。実際の観測では40分後の13:50 UTにアラートレベルが3を超え、10分の誤差で予測に成功していることが分かる。14時UT付近にAL指数はピークを迎え、その後は減少傾向になることも予報されている。オーロラ観測は寒さと眠気との戦いである。13時時点で明るいオーロラに出会えていない観測者が、このあとは諦めて帰るかどうか迷っている時、この予報を見えれば1時間後には明るいオーロラに出会えることを知ることができる。4.2 数か月先の予報 オーロラ観測を計画する段階では、長期予報が知りたい人が多いはずである。その場合は、上記のリアルタイムの太陽風をベースとしたモデルはリードタイムが数時間のため全く足りない。長期予報は太陽風の起源である太陽をモニターすることが手掛かりとなる。特に、明るいオーロラの出現確率は、特に高速太陽風が地球に到来した場合に高くなる。太陽から高速風が吹き出す原因の一つは、太陽表面におけるコロナホール領域の形成である。コロナホールは太陽表面上の磁場の開いた領域であるため、磁力線に沿って高速太陽風が惑星間空間へ流出する。一度形成されたコロナホールは数か月以上に渡り存在することも珍しくない[8]。地球に対して太陽は約27日周期で自転しているため、地球に到来する高速太陽風にも27日周期の回帰性がある場合が多い。このため明るいオーロラの出現頻度にも約27日の回帰性がある。オーロラアラートでは、この回帰性を利用した1日〜2か月先の長期予報も公開している。これは、ある日の0時UTCから始まる24時間のアラートレベルの最大値Lvmax(n)は、27日後・54日後にも観測される、つまりLvmax(n)=Lvmax(n+27)=Lvmax(n+54)とした非常に簡易な推定である。コロナホール以外にも、太陽フレアやフィラメント噴出等に伴うコロナ質量噴出(CME)が発生し4図4 予測値と実際の観測結果の比較3 磁気圏研究126 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)
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