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まえがき宇宙天気の影響の一つとして、地磁気じょう乱により地上の送電線やパイプラインのような長距離にわたって敷設された導体に誘導電流が流れることが知られている。これを地磁気誘導電流(GIC)と呼んでいる。高緯度の地域では、オーロラ活動に伴う強い地磁気じょう乱により大きなGICが流れることが知られており、電力システムやパイプラインへの影響についての研究が以前から行われてきた[1]-[5]。実際、1989年3月の大きな磁気嵐の際にはカナダのオタワで大規模な停電[6]が、2003年10月末に発生した大きな磁気嵐(ハロウィンイベントと呼ばれている)の際にはスウェーデンのマルモで停電[7]が発生した。グローバルな地磁気データの解析から、大きな地磁気嵐の際でも地磁気変動の大きさは磁気緯度が50度以下の地域では急激に小さくなるため、中低緯度ではGICの影響は小さいと言われている[8][9]。しかし、2001年11月6日の磁気嵐の際にニュージーランドで発生した変電所の変圧器保護リレーの動作[10]や前述のハロウィンイベントの際に南アフリカで発生した発電所の変圧器の焼損[11]などの事例が報告されたことにより、中低緯度でもGICによる電力システムへの影響が懸念されるようになった。また、地磁気データを用いた解析から、赤道付近でも惑星間空間衝撃波の到来に伴って大きなGICが発生する可能性があることが指摘されている[12]。このような状況を受けて、ニュージーランド[10]、オーストラリア[13]、南アフリカ[14]、日本[15]、中国[16]、スペイン[17]、ブラジル[18]など中低緯度の国々でもGIC測定やその影響評価が行われるようになってきている。なお、地磁気じょう乱によるGICの影響について検討する際には、その地域の磁気緯度を考慮する必要があるため、参考として図1に地理緯度と磁気緯度の世界地図を示す。本稿では、まず、GICを測定するために開発し、関東周辺の500 kVの変圧器に設置した測定装置の概要1図1 地理緯度と磁気緯度の世界地図宇宙天気の影響の一つとして、地磁気じょう乱により送電線に準直流電流が流れて電力システムに障害を及ぼすことがある。このような現象は地磁気誘導電流(GIC)と呼ばれている。高緯度の地域でその影響が顕著であるが、中低緯度の地域でも電力システムの障害の発生が報告されており、日本においてもその測定や影響の評価が必要となっている。本稿ではGIC測定装置及び関東周辺での測定結果について述べる。As one of space weather effects, there is failure of electric power systems caused by quasi-dc current in power lines associated with geomagnetic disturbances. This phenomenon is called geo-magnetically induced current (GIC). While the impact is significant in high-latitude regions, failures in electric power systems have also been reported in mid- and low-latitude regions. As the result, it is necessary to measure GIC and to evaluate its effect in Japan. This paper described the GIC measurement system and the measurement results around the Kanto area.3-5 地磁気誘導電流(GIC)の測定3-5Measurement of Geomagnetically Induced Current (GIC)亘 慎一 中村紗都子 海老原祐輔WATARI Shinichi, NAKAMURA Satoko, and EBIHARA Yusuke1293 磁気圏研究

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