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2019年より5分間隔の観測の検討を開始し、2020年6月より、5分間隔の観測を開始した。5分間隔の観測を実現するために、図4(b)のように各観測点75秒の送信間隔を40秒に短縮した。斜入射観測も同様に40秒の間隔で実施している。図5(a)に、VIPIR2の5分間隔観測によって捉えられた電離圏の短周期変動の一例を示す。2020年6月21日の部分日食時の国分寺局の観測である。図は、比較的ノイズの少ない4.0MHz-4.2MHzでの正常波モードの平均信号強度で、見かけ高さ100 km–350 kmにおける時間変化を示している。横軸は12時JSTからの10時間の時刻に対応していて、(i)、 (ii)、 (iii)で示す縦線がそれぞれ、食の始め(16:11JST)、食最大(17:10JST)、食の終わり(18:03JST)に対応する。最大時の食の面積は全体の36%であった[9]。12JSTから16JSTまでは、高度100km付近に強いスポラディックE層によりF層が遮へいされているが、スポラディックE層はその後消失し、食の始まるころからF層が観測され始める。F層エコーは、(i)に示す食の始めから下降が始まり、(iii)で示す食の終わりとともにいったん上昇、その後、19時頃の日没に伴い再び下降することがはっきり見てとれる。また、(ii)で示す食最大のタイミングより、十数分スケールで層が上下する変動が複数見られ、日食による層の上下動に加え、更に細かいスケールで上下動していることが示唆される。一方図5(b)は、図5(a)で示した5分間隔の観測を仮想的に15分間隔の観測として作図したものであり、食に伴う層の上下動がかろうじて捉えられる程度であることがわかる。このように、定常観測の観測間隔を5分に短縮することによって、電離圏に頻発する十数分のスケールの変動も定常的に捉えられるようになった。特に、VIPIR2では、正常波と異常波の分離が可能であるため正常波の時間変動のみを自動で抽出することができ、観測頻度を短縮することで、より容易に正常波の短周期の変動を捉えることが可能となった。2.3電波到来方向の推定マルチ受信システムを用いる利点の一つは、電波到来方向の推定が可能となることである。電波到来方向の推定手法には複数あるが、ここでは最もシンプルな位相合成方法であるフーリエ法[10]を用いて、その手法がVIPIR2の観測に適用可能であることを示した例を紹介する。フーリエ法は、図6にその概略を示すように、各チャンネルで受信された信号にフーリエ映像フィルタと呼ばれる重みを付けて、その出力パワーを求める方法である。電波到来方向がほぼ明らかな斜入射観測のイオノグラムに対して、フーリエ法を適応した結果を図7に示す。図7(a-1)、 (b-1)、 (c-1)では、それぞれサロベツ、山川、大宜味で送信された電波を国分寺局にて受信したイオノグラムを示す。国分寺局から各送信局までの距離は、サロベツ、山川、大宜味の順に、それぞれ1,068km、963km、1,480kmであり、この距離に対応して電離層エコーの現れる「見かけの高さ」が高くなる。例えば図7(a-1)のサロベツの場合、見かけの高さ600 kmよりも少し低い所にスポラディックE層のエコーが見られ、600 kmよりも少し高い所にF層のエコーが見られる。図7(a-1)の四角形で囲まれたF層エコー領域を拡大して図7(a-1)の右上に示す。白丸で示す点のうち、8.8 MHzで見かけ高度620 kmの部分の信号にフーリエ法を適用した結果を図7(a-2)に示す。図7(a-2)は、観測点直上から下を見下ろした図で、右上-左下、左上-右下の白線が国分寺局での受信アンテナの基線の方向に対応する。方位角・天頂角ともに5度ごとに刻んだグリッド上で、フーリエ映像フィルタを適用して出力パワーを算出し、色で示し、天頂角は70度以内のデータを描画している。図7(a-2)で、出力パワーが最大となるのが、方位角7度図4 定常観測のスケジュール(a)2020年5月までの15分間隔、(b)2020年6月以降の5分間隔スケジュール。図5 イオノゾンデによって捉えられた高度100-350㎞における4.0MHz-0.2MHzの正常波モードの受信信号の時間変化2020年6月21日12:00JST-20:00JSTの国分寺での観測による。8   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究

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