まえがき太陽コロナの爆発現象である太陽フレアやフィラメント消失現象が発生すると、発生領域周辺のコロナガスが惑星間空間に向かって放出されることがあり、この現象を「コロナ質量放出(Coronal Mass Ejection, 以降CME)」という。ただし、太陽フレアは常にCMEを伴って発生する訳ではなく、CMEを伴わない太陽フレアも一定数存在する。太陽フレア・フィラメント消失・CMEは、共通の爆発現象の一部が異なって見えているものであり[1]、フレア発生領域とその周囲のコロナの状況などの要因により、CME発生の有無が決まるのではないかと考えられている。これらの爆発現象を総じて太陽嵐と呼ぶ。深刻な宇宙天気じょう乱を引き起こす高速で強い磁場を持つ大規模なCMEは、大規模なフレアに伴うものであることから、リアルタイム予測で対象とする太陽嵐は、太陽フレアとCMEが同伴して発生した現象に限定する。コロナグラフで観測されたCMEでは、しばしば中心部分に高密なガスがねじれた繊維状構造を形成している様子が観測されている。この構造は磁力線の一部に支えられた構造と理解でき、CME内部には「ねじれた磁束管(フラックスロープ)」があると考えられている。本研究報告4-2で解説されているように惑星間空間には太陽風が全ての方向に向かって流れ出している。フラックスロープが惑星間空間に放出されると、フラックスロープ自体が膨張しながら、前方を流れる太陽風の中を相互作用しつつ一定の立体角を保持して伝搬していく(図1)。もし前面を流れる太陽風よりもCMEの速度の方が十分に速ければ、太陽風を後ろから押して圧縮し衝撃波を形成する。圧縮された太陽風とその中に含まれる磁場は一部CME前面に蓄積されながら一体となって伝搬する(図1、シース領域)。このようにCMEは惑星間空間における津波のような現象と理解することができる。CMEは図1に示す様に、地球近傍の惑星間空間に達するまでに巨大な空間スケールにまで膨張していると考えられ、それ故CMEの伝搬方向と地球の位置と1太陽フレアやフィラメント消失現象の発生に伴って惑星間空間へ放出されるコロナガスの塊「コロナ質量放出(CME)」は、地球磁気圏にまで到来すると宇宙天気じょう乱を引き起こす主要因となり得る。そのため、CMEの影響がいつどのように地球に到来しどの程度の影響を及ぼすかについての予測は、宇宙天気予報の中で極めて重要なタスクの一つである。リアルタイムで得ることができる太陽表面及び太陽コロナの観測データに基づいた3次元の磁気流体力学(MHD)シミュレーションにより数日後のCMEの到来を予測するためのシステムを開発し、運用を開始した。本稿ではその概要とシミュレーション結果の一例を紹介し、今後の展望について議論する。Coronal mass ejections (CMEs) are massive coronal gas expelled from the solar corona associ-ated with solar flares and/or filament eruptions, and they can cause large disturbances of space weather in the geo-magnetosphere. Prediction of their arrival and their impact on the space weather is one of the crucial tasks in space weather forecast. Recently we have developed a new prediction system of the CME arrival based on real-time observation of the Sun and 3D MHD simu-lation of CME propagation into solar wind in the inner heliosphere. Here we introduce overview of the prediction system and an example of prediction results and discuss prospect of the prediction.4 太陽・太陽風研究4Research for the Sun and Solar Wind4-1 太陽嵐到来予測システム4-1Real-time Prediction System for Solar Storm Arrival塩田大幸 八代誠司SHIOTA Daikou and YASHIRO Seiji1374 太陽・太陽風研究
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