の関係によって観測される様子が異なる。一般的に、太陽フレアに伴ってCMEが発生すると、太陽フレア発生領域から動径方向にCMEが放出される。例えば地球の真正面で太陽フレアが発生し高速なCMEが放出されると、CMEの中央が地球の位置を通過する。一方、地球から見て太陽面中心から少し離れた領域からすれば、CMEの脇の領域が地球の位置を通過する。フラックスロープの広がりよりも更に離れている場合は、衝撃波のみが到来する。さらに、CMEの広がりよりも大きく離れた領域からCMEが放出されれば、地球にCMEが到来しない。また、CMEが宇宙天気じょう乱を引き起こす際にその影響の大きさを決める要素として、地球に到来するCME内部の磁場が南向き成分を持つかどうかが重要になる(本研究報告3参照)。その磁場の向きについても、フラックスロープのどの位置が通過するかが関係してくるため、CMEの形状とともに伝搬方向を正確に予測することが重要になる。このように地球から見て太陽面のどの位置から(どの方向に)どれくらいの広がりを持ってどのような状態のフラックスロープが放出・伝搬されるかが重要になる。SOHO衛星に搭載されたコロナグラフ(LASCO)は、太陽近傍の30太陽半径(太陽地球間距離の約0.15倍)までの範囲の太陽コロナを観測しているため、CMEが放出された初期段階を捉えることができる。一方で、コロナグラフ視野の外の範囲については観測データが乏しく、そこから地球に至るまでの間のCMEの伝搬過程については、観測から情報をほとんど得ることができない。コロナグラフ視野の外の次に観測情報を詳細に取得できるのはDSCOVR衛星等による太陽地球間のL1点でのその場観測であり、L1点での観測後1時間未満で地球へ到来する。そこで十分に長いリードタイムをもったCMEの到来予測を実現するために、太陽コロナの観測データに基づいた3次元の磁気流体力学(MHD)シミュレーションを利用する。最終的には、CME到来による宇宙天気じょう乱発生の有無の予測が目的となるため、MHDシミュレーションによって現実的な非一様な太陽風の中をCMEが伝搬する過程を再現することで、CMEと太陽風の相互作用の結果変形したCMEが地球へ到来するかどうかを計算することができる。この実現のために、X線のフラックス時系列データ・極端紫外線による太陽コロナ画像・コロナグラフ画像などの観測データを自動的に収集・解析をして、入力するCMEの位置・速度・大きさ・向きなどの状態が異なる複数ケースのアンサンブルシミュレーションを容易に実行するためのシステムを開発した。本稿では、そのシステムの概要と、結果の一例を紹介する。その後、残された課題と今後の展望について議論する。太陽嵐到来予測システム概要2.1 MHDシミュレーション SUSANOO-CMEまず初めに、本システムの中核となる3次元MHDシミュレーション「SUSANOO (Space-weather Usable System Anchored Numerical Operations and Observa-tions)-CME」[2]について説明する。この数値シミュレーションでは、重力を入れた理想MHD方程式を時間発展させて、プラズマの挙動を計算する。本研究報告4-2で解説をされたように、コロナから惑星間空間を流れる太陽風は、一様に流れているわけではなく、太陽表面の磁場分布を反映して、速い太陽風が流れる領域と遅い太陽風が流れる領域が混在し、またその分布も太陽表面の磁場分布の変化に応じて変化していく。このような太陽風の分布は観測データに経験的に知られたモデルを適用することである程度再現できることが知られている[3]。GONGプロジェクトで得られた太陽表面の磁場分布から十分に加速された太陽風の分布を内部境界条件として仮定することで、計算を簡単化・高速化するために太陽コロナ領域を省略したシミュレーションが実行可能になる。計算領域を太陽中心から25太陽半径(約千7百万 km)から火星の軌道を含む約3億 kmまでの領域とし、全方向を解くために、野球ボールのように部分球殻2つを組み合わせたYin-Yang格子[4]を用いる。太陽表面磁場は時々刻々と変化していき、それに応じて内部境界の太陽風の分布も時間変化させていく。このように現実的な太陽風を再現し、それを背景場にしてCMEを伝搬させる。2図1太陽風の中を伝播するCMEの模式図 矢印が磁力線、背景の色が相対的な密度を示す。138 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)4 太陽・太陽風研究
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