次に入力するCMEのモデルについて説明する(図2)。このモデルでは、内部にねじれた磁束管(フラックスロープ)を含むほぼ球状の高速のプラズマの塊がシミュレーション内部境界を通過する過程を模擬する。フラックスロープは球殻の中で閉じる解析的に記述可能なforce-free磁場モデルであるspheromak磁場を使用する(図2左)。このCMEが動径方向に伝搬膨張し(図2右)、内部境界のある位置(25太陽半径)を通過すると仮定したときに、その位置のCME通過中の断面の分布の情報をシミュレーションの内部境界の太陽風データの中に埋め込む。このモデルではどの位置・時刻にどのような状態のCMEを入力するかを決めるパラメータが10種類あり、これによって決まるCMEが太陽風と共に内部境界を通って計算領域の中に入ってきて、そのまま外に向かって伝搬していく。このようにそれぞれのCMEに対してパラメータを決めて太陽風境界条件に情報を追加しているため、連続してCMEが複数発生した場合のシミュレーションが実行可能であり、複数CME同士の伝搬中の相互作用についても再現することが可能になっている。実際に太陽活動が非常に活発な時期には大規模な太陽嵐が連続して発生し、それぞれのCMEが相互作用をした結果、地球に到来することがある。今世紀最大規模の太陽嵐である2003年10月下旬に発生したハロウィン・イベントもそのうちの一つである。図3は、2003年10月のハロウィン・イベント及びその前後のCMEを再現したシミュレーション結果である。図3左は地球に到来した太陽風のその場観測結果(青線・黒線)とシミュレーション結果(赤線)を比較したグラフ、図3右はCME中心のねじれた磁場構造が地球を通過している瞬間の惑星間空間の磁場とプラズマ速度の様子を示している。実際に観測されたCME前面の衝撃波、その直後に高速のシース領域が形成され、その構造が実際の観測と近いタイミングで地球を通過していることがわかる。さらに、衝撃は通過後に強い南向き磁場が通過しており、これがCME内部のフラックスロープの磁場に対応することがわかる。2.2リアルタイム太陽観測データを用いた予測システム次に、SUSANOO-CMEを用いた予測シミュレーションを実行するために、リアルタイムの観測データに基づいて入力するCMEのパラメータを決める必要がある。そのために、太陽フレア及びCMEを自動もしくは半自動で解析をすることで素早くシミュレーションの実行を可能にした。まず太陽フレアの観測データについて自動的に解析を行うシステムを構築した。GOES衛星太陽X線fluxの時系列データから、開始時刻・ピーク時刻・終了時刻・X線ピークflux・fluxを時間積分したfluenceを求める。SDO衛星AIA観測装置による太陽面の極端紫外線画像を使用し、フレア発生領域の位置(緯度・経度)を特定する。次に、CMEに観測データついては、SOHO衛星LASCOの差分画像を作成する。CMEの自動検出は難しいため、ブラウザ上で差分画像でのCMEの先端の図3(左)太陽風その場観測とSUSANOO-CMEでの地球に到来する太陽風(太線)の比較 破線は観測された衝撃波到来のタイミングを示す。(右)SUSANOO-CME で再現されたCMEの3次元構造。太いチューブは磁力線を示す。赤い等値面は内側の速度が1,200 km/sを超える領域を示す[2]。図2CMEモデルの模式図 (左)3D構造 色のついた直線がspheromak磁場の磁力線、透明な等値面の内側が高い速度を持つ領域を示す。(右)動径方向の伝搬によりCMEがグレーの領域に変形したと仮定。1394-1 太陽嵐到来予測システム
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