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ラメータを両方変化させる必要があり、先行CMEの磁束量あげて速度を下げることで観測と近い値を再現できた。また、CMEの伝搬方向を地球に少し寄せた方が、フラックスロープが地球をかすめやすくなるため南向き磁場が到来しやすくなった。フラックスロープ内の磁場の向きを変更することで地球に到来する磁場の形状が大きく変化した。以上のように、GOES X線フラックス、AIAや LASCOにコロナ観測画像から得られたパラメータそのものを使用するのではなく、観測データに修正を加えて使用することで、実際にDSCOVRによる観測に近い結果を得ることができた。その修正の手法についてはイベントごとのばらつきが大きいため、統一的な手法を見つける段階には至っていない。特にフラックスロープの向きや、伝搬方向の変化は地球に到来する磁場の向きを全く別のものにしてしまうため、アンサンブルメンバーのパラメータをどのように振るかを探ることが重要になってくる。今後、過去の大量のCMEイベントについての再現を試みることで、その傾向を詳しく調査する必要がある。今後の展望以上に示したとおり、宇宙天気予報に利用するためのリアルタイム太陽観測データ及びMHDシミュレーションを使用したアンサンブル予測システムを構築し、運用を開始した。CMEの到来時刻及び南向き磁場の予測を行うことが可能であるが、パラメータの不定性を減らす取組や、予測の精度を上げるための研究が今後重要な課題となる。CME内部のフラックスロープの向きやそのねじれの向きを決めるための情報として、フレアを発生した活動領域の磁場構造のデータが利用できる可能性がある。磁場のデータをリアルタイムで取得し、フレア発生領域を重ねることで、フレアを起こした磁気ループの性質を抽出する仕組みを今後整備する予定である。CMEの到来時刻に影響を及ぼす要素として、背景となる太陽風の状態が重要となる。本システムのシミュレーションでは太陽風は簡略化したモデルで与えているため、実際の状態と乖かい離りすることがある。このような時にはCMEのパラメータを変えるだけでは対処が難しい。この対策として、複数の異なる太陽風モデルを用いて複数パターンの背景太陽風を準備することで、その時の一番実際の観測と合うモデルを選択し問題を回避する予定である。予測精度を上げる取組の一つとして、名古屋大学宇宙地球環境研究所の惑星間空間シンチレーション(IPS)観測を用いた予測結果の評価及びデータ同化手法の開発が進められている[5][6]。現在最新のIPS観測データを名古屋大学から提供されていて、宇宙天気予報の参照データとして使用しており、[5][6]によって開発された手法を取り入れる準備を進めている。SUSANOO-CMEと用いた当システムと同様に、惑星間空間の太陽風の中をCMEの伝搬する過程を事前にシミュレーションしてその到来を予測する試みは、諸外国でも運用されている。先駆的なモデルはENLIL[7]と呼ばれる2000年代初頭から米国で開発がすすめられたMHDシミュレーションを用いたもので、NASA,NOAAをはじめとして、英国Met Officeや韓国での運用が行われている。現在運用されているENLIL- Coneモデル[8]は、アンサンブル予測の技術の開発が先行している[9]が、CME内部に磁場が入っていないため、CMEの影響度の予測には向いていない。我々の先行研究[2]が世界に先んじて開発をした後、米国・欧州・中国などでも磁場を含むCMEを入力するMHDシミュレーションの技術が開発されている[10]–[12]。到来するCMEの時刻とその速度や磁場南北成分が精度よく予測が実現すれば、その次のステップとしてCMEの宇宙天気影響度の予測が可能になることが期待される。近い将来に、各国の宇宙天気予報機関による予報結果をお互いに参照し合い、競い合う時代が来ることが期待される。謝辞本稿で紹介した取組の一部は総務省委託業務「0155-0099 電波伝搬の観測・分析等の推進」の支援を受けて行われている。本研究の一部は、文部科学省科学研究費補助金(15H05813, 15H05814, 15K21709,19K23472, 21H04492)の助成を受け実施した。観測データを提供している次の機関the Global Oscillation Network Group (GONG) program, NASA Solar Dynamics Observatory team, LASCO coronagraph group, NOAA DSCOVR satellite team NOAA GOES satellite team、京都大学地磁気世界資料解析センター、名古屋大学宇宙地球環境研究所に感謝する。参考文献】【1Shibata K., “New Observational Facts about Solar Flares from Yohkoh Studies- Evidence of Magnetic reconnection and a Unified Model of Flares,” Adv. Space Res., vol.17, Issue 4-5, pp.9–18, 1996.2Shiota D. and R. Kataoka, “Magnetohydrodynamic simulation of inter-planetary propagation of multiple coronal mass ejections with internal magnetic flux rope (SUSANOO-CME),” Space Weather, vol.14, pp.56–75, 2016. doi: 10.1002/2015SW0013083Arge C. N. and V. J. Pizzo, “Improvement in the prediction of solar wind conditions using near-real time solar magnetic field updates,” J. Geophys. Res., vol.105, Issue A5, pp.10465–10479, 2000. doi:10.1029/1999JA00026241414-1 太陽嵐到来予測システム

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