太陽表面の磁場分布と共にCHの形状も時々刻々と変化するが、面積が活動領域と比べて大きなスケールのCHは太陽の自転周期の数回分の期間ほど安定して存在することが多く、このため、このようなCHを源にした高速太陽風によるじょう乱は太陽の自転と同様の周期性(約27日)を持つことが多い。低緯度に位置するCHから放出される高速風は地球軌道へ達し、極付近のCHからの高速風は地球軌道を外れることが多く、また現象に周期性が見られると高速風によるじょう乱の警戒の要・不要の判断は容易である。一方で中緯度に位置するCHについてはCHの境界が磁場形状の変化に伴って変化するためCHのどの部分から放出される高速風が地球軌道に達するか、周期性のみでは高速風到来の予測が難しい。そこでCHと地球軌道に到達する高速風との関係を直接結びつけることが可能な太陽風のグローバルなモデリングが必要になる。これまでいくつかの太陽風のMHD モデルが開発されている。宇宙天気予報に活用されている代表的なモデルは、計算リソースの負荷が大きくない太陽の数10太陽半径(以降RS)から外側から数AU(天文単位、太陽-地球の平均距離に由来している。1AUはおよそ215RS)までをモデル化している [1]、本研究報告4.1や [2]が挙げられる。また太陽コロナ域や光球から惑星間空間までを対象にしているモデルでは [3]や [4]、 [5]がある。Tanakaによって開発されたREPPU code [6]、[3]は太陽コロナから約200太陽半径までをカバーしているが、我々はこのモデルをベースにして宇宙天気予報に利用できるように改修を行った[7]。このモデルの特徴は球面を覆う計算格子構造にある。通常の球座標と異なり極に特異点がなく、またつなぎ目もなく一様に三角形で覆われている(図2)。このため球座標に見られる極付近の細かい格子により時間ステップが制約されることがない。このことによりRSスケール未満のCHと200 RS以上のグローバルな太陽風構造の両方を再現することができ、高速太陽風領域とその源になっているCHの関係を同定することが可能になった。本モデルは2018年2月28日より自動化して運用を開始し、NICTにて毎日宇宙天気予報の参考データとして太陽風の予測に用いられている。本稿ではREPPUモデルの概略と自動化システム及びシミュレーション結果について述べる。手法ここで用いているシミュレーション手法やモデルについては[8]及び[3]に記載されているため、ここではこれらと異なる点について述べる。シミュレーション領域は217RSまで延ばし、L1点(ラグランジュ点。天体と天体の重力平衡点の一つ。太陽-地球系のL1点は太陽-地球間で地球から約150kmの位置。)での衛星観測データと直接比較できるようにした。動径方向の格子数は217で、格子間隔は等間隔ではなく太陽近傍の最も細かい格子間隔で0.02 RS、地球軌道近傍のもっとも粗い間隔は2.7 RSである。シミュレーションの入力としてGONG(Global Oscillation Network Group; GONG。太陽の内部構造を明らかにするために構築された地上望遠鏡による観測ネットワーク。)による光球磁場観測データを用い、ポテンシャル磁場を求め、定常状態になるまでMHD計算を実行する。このモデルではコロナを加熱することにより太陽風を加速することから、解くべきMHD方程式には以下のような加熱項S’Eを入れている。exp/(1) ⋅exp/.⋅⋅ (2)(2)式は[8]、[3]で用いられてきた加熱項で、右辺第一項指数関数的に減衰するvolmetric metric heating function、第二項はSpitzerタイプの熱伝導式である。(2)式下のfsはexpansion factorと呼ばれる磁場形状に関係する量で、磁力線の開き具合を示している。BRs、 BR、 Rはそれぞれ太陽面と太陽からの距離Rでの磁場強度、太陽からの距離を表す。磁力線の開き具合と加熱・加速との関係が経験則的に知られていることからexpansion factorの逆数を加熱項に用いている。またQ0、 LQ、 はそれぞれ加熱強度と減衰スケールで、Q0=13.2×10-6 Jm-3s-1を用いており、LQ、は後に述べるが自動化にあたって調整している。また(1)式右辺第二項はKojima et al.(2004 [9])により太陽風加速は(2)式の1/fだけでなく、磁場エネルギーの供給を考慮て太陽風加速はB/fに比例すると提案されたことから付加した関係式である。ここでは計算の安定性のため2図2 シミュレーション球面の計算格子構造144 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)4 太陽・太陽風研究
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