発・大噴出現象へと遷移する。太陽フレアが発生すると、黒点群上空のコロナは数千万度に加熱され、通常の数千~数万倍のX線や紫外線・電波といった広範な波長域の電磁波、高エネルギーの荷電粒子、磁場を伴った太陽コロナ大気が惑星間空間に放出される。太陽フレアから放出された電磁波は光速で約8分後、高エネルギー荷電粒子は20分~2日後に、コロナ質量放出や高速太陽風による太陽風じょう乱は2~3日後に地球に到達する。これらは地球周辺の宇宙環境にも影響を及ぼすことがあり、地磁気や電離圏での嵐を引き起こす原因ともなり得る。過去には、強力なX線による短波通信障害(デリンジャー現象)や高エネルギー荷電粒子による人体被ばく・電子機器故障、大気変動や電子密度変化に伴う衛星・航空運用や衛星測位誤差への影響、地磁気誘導電流による大規模停電の発生等の事例が報告されている。宇宙天気の変動は、宇宙利用の進む現代社会において重大な影響を及ぼす可能性があり、宇宙空間の安全利用と宇宙天気変動が引き起こす被害に対するリスク管理のためにも予報による早期対策が必要不可欠である。近い将来、数千機の通信衛星や衛星測位によるサービス利用が見込まれ、地球低軌道や月面での宇宙ビジネスも注目を集める中、有人宇宙活動や航空運用における被ばくの影響も見過ごせない。国際民間航空機関(ICAO)では宇宙天気情報利用が既に始まっている。一方で、太陽フレア発生から巨大な磁気嵐・電離圏嵐の発生まで2, 3日の猶予しかなく、被ばくや通信障害は太陽フレア発生とほぼ同時に被害が発生する。したがって太陽フレアの予測精度向上と予測リード時間の伸長が喫緊の課題である。太陽フレアの発生機構と予測2.1太陽フレアの予報と観測データ近年の「ひので」やSDO(Solar Dynamics Observa-tory)衛星といった太陽衛星観測によって、太陽の光球磁場やコロナの高空間時間分解能観測データが誰でも見られるようになった[1][2]。また天候や昼夜に影響されず、高品質で24時間定常的に太陽活動の観測と追跡が可能になり、太陽物理や太陽フレア発生機構の理解が飛躍的に進んできた。太陽は約27日の自転周期を持ち、太陽黒点は東端リム(太陽画像で向かって左端)から西端リム(右端)へと、約15日かけて赤道付近を移動する。その間に黒点群は成長や減衰を繰り返し、時に太陽フレアが発生する。フレアの規模は、X線放射強度によって分類される。米国気象観測衛星GOES搭載のX線観測装置によって、1-8ÅのX線強度が1桁変わるごとに分類され、最大規模をXクラス、中規模をMクラス、小規模をCクラスフレアと呼んでいる。特にXクラスのフレアが発生すると、静穏時の100~1,000倍のX線放射によって短波通信障害が数分~数十分発生する[3]–[5](図2)。太陽フレアの発生頻度は11年周期とともに変化し、平均的にはXクラスで年2-3回、Mクラスで20-30回、Cクラスは300回発生する。大規模なフレアほど発生数が少ないため、経験則に基づく予測も難しい。フレアの予測には、黒点周辺に蓄積された余剰エネルギーや、浮上磁場に伴う微小な前兆現象を監視することが重要である。白色光地上観測スケッチをもとに、昔から太陽黒点群は分類されてきた。黒点群は正負の磁気極性が対となることが多く、形状はα型(単極磁場)、β型(双極磁場)、γ型(やや複雑な混合極性磁場)、δ型(非常に複雑)と分類される[6]。δ型黒点ではXクラスフレアが発生することが多く、大きな黒点ほど大規模なフレアを発生する傾向にある[7]–[9]。また同じ黒点領域から同規模のフレアが繰り返し発生する傾向があり、長い間経験則に基づいたフレアの予測が行われている。2.2太陽フレアの予測の課題と問題点さらに近年は、太陽観測衛星による多波長高分解能データによって、黒点群付近の光球磁場やコロナの詳細な情報が得られるようになってきた。これらによって、黒点の大きさや形状分類だけでなく、黒点群領域内の正負磁気領域の境界線である磁気中性線の時間発達する様子、その周辺のベクトル磁場解析による磁気的歪み具合の様子、浮上磁場に伴う新しい磁場構造の出現、彩層底部での発光現象などを捉えることができるようになった[10]。それと同時に、コロナ中の高温プラズマの加熱など、新たなフレアの前兆現象と思しき現象が新たに多数発見されている(図3)。こうした観測データのビッグデータ化が進む一方で、膨大な量のデータ解析はなかなか進まず、人手による2図2 太陽X線光度曲線(GOES衛星)150 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)4 太陽・太陽風研究
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