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予報への活用も不十分だった。定量的な情報処理は人力では難しく、また経験則に基づいた予測は予報を行う専門家個人によっても判断基準に差があり、予報評価と改善にも時間を要するという課題もある。実際、人手を介した太陽フレアの24時間以内の発生予測の場合、3-5割の予測精度であり[11]–[13]、まだ改善の余地がある。また理論数値シミュレーションによる研究も行われているが[14]–[16]、フレア発生機構の解明には至っていない。これらの課題を解決する方法として、我々は機械学習手法の応用に着目した。機械学習は、人手では扱えない大量データを分析できる特長があり、既知の学習データをもとに傾向を分析して未知のデータの予測や分類をすることができる[17]。深層学習は機械学習の一種で、多層のニューラルネットワーク構造をもとにデータの特徴を学習し、精度良い予測結果を導き出すことができる[18][19]。これらを大量の太陽衛星観測データに適応することで、我々は太陽フレア予測の高精度化とフレア発生機構の解明に迫る挑戦的課題に取り組んだ。太陽フレア予測モデルの開発3.1深層学習を用いた太陽フレア予測モデル「Deep Flare Net」本章では、我々の開発した深層学習技術を応用した太陽フレア予測モデル「Deep Flare Net」について解説する。本予測モデルは、今後24時間以内に発生する太陽フレアの発生確率や最大規模を、太陽面上の黒点群ごとに求め予報することができる[20]。処理過程は4段階あり、(1)NASA観測データアーカイブから過去データを取得、(2)太陽磁場画像から黒点を自動検出、(3)領域ごとに79個の特徴量を抽出、(4)深層学習に入力して学習し、最終的に予報確率が出力される(図4)。まず過去データを用いてモデル構築した後、リアルタイム運用システムを作成した。学習にはSDO衛星観測による視線方向磁場、ベクトル磁場、高温コロナ(131Å)、光球上部~彩層底部(1,600Å)の6年間分の約30万枚の画像データとGOES衛星によるX線積分データ(1~8Å)を用いた。視線方向磁場画像からある閾しき値いちを基に黒点群を検出及び同定し、同領域における多波長観測データから計算した特徴量を抽出した。例として、黒点面積や最大磁場強度、磁気中性線の磁場勾配や長さ、ローレンツ力、磁気シア角、余剰磁気エネルギーなどを算出している。さらに彩層底部発光強度、コロナ高温輝線やX線の過去最大値やフレア履歴を用いた。これらの特徴量は日々の予報運用ノウハウ及び過去の太陽物理研究に基づいて選出した。そして抽出特徴量は標準化(規格化)し、フレア発生前データにはフレア発生ラベルを添付した。予測アルゴリズムには複数の機械学習手法を試した後、試行錯誤の末に層学習技法を応用することで精度向上を図った[20][21]。深層学習は現状最も精度の良い3図3(a)(b) 2017年9月6日に発生したXクラスフレア領域の光球磁場観測データと、(c)–(e)その上空の光球上部~彩層底部、遷移層、コロナの観測データ(SDO衛星HMI, AIA望遠鏡)1514-3 太陽フレア発生予測

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