良を組み込んだ。図5にDeep Flare Netの公開サイトを示す。6時間ごとに更新されたリアルタイムの太陽画像と黒点群として検出された領域を示し、右側には黒点ごとのMクラス/Cクラス以上のフレア発生確率の棒グラフと、太陽全面での発生確率を示している。ここで示す予報確率を使って、50%を閾値としてフレア発生の有無を判別している。その一方、50%を閾値として判別できるよう、フレア発生頻度に応じた重み付けをした確率であり、実際のフレア発生確率ではない点に注意頂きたい。また天気予報の晴・曇・雨マークと同様、一般ユーザーにもわかりやすいよう、「静穏・警戒・危険」といった警報マークを表示した。本予報システムを開発した頃は太陽活動の極小期であり、ほとんどフレアの発生がなかったが、太陽サイクル25が開始してからフレア発生数は徐々に増加し、Mクラスフレアも発生するようになってきた。2019年から予報運用を開始して以降、NICTで行う宇宙天気予報会議でもDeep Flare Netの予報結果は活用している。2021年4月に発生したMクラスフレアでも24時間前に予測の的中に成功し、今後活躍の機会は増えると期待される。また運用開始から2年経過し、予報精度評価を行ったところ、運用開始前と同程度の評価精度を達成していることも確認できた[24]。今後の展望我々は深層学習手法を太陽フレア予測に応用し、24時間以内に発生する太陽フレアを予測する世界初の太陽フレアAI予報運用モデルDeep Flare Netを開発公開することに成功した。同モデルは2019年から運用中であり、NICTの宇宙天気予報会議でも活用されている。大量で高分解能の多波長太陽観測衛星データと最新の深層学習手法とを組み合わせることで、太陽フレア発生前の黒点群周辺の特徴を抽出し、喫緊の課題であった予報的中率の8割到達に成功した。さらに本研究成果はフレア発生機構を解明する新しいアプローチも示した。従来の太陽研究では、詳細な観測データ解析を基に太陽フレア発生のトリガー機構の候補発見に注力してきた。しかしながらフレア前の微小現象を候補として列挙する一方、どの特徴で何割当てられるのかという検証はなされてこなかった。今回、機械学習を用いたことで初めて各特徴量の重要度が可視化され、比較が可能になった。これは理論数値シミュレーションとの比較にも有効で、予測に有効だと理論予測された特徴量の検証にも使える。一方で、逆に観測的に重要だと示された特徴を数値シミュレーションで詳細解析できる可能性も見えてきた。太陽フレア予測にも課題は山積している。現在24時間予報を行っているが、今後2日、3日と予報期間を延ばしていく必要がある。その際には数日後の黒点形状がどう発達するか、太陽内部の浮上磁場を含めて予測することが重要になる。また黒点観測のできない太陽東端・西端のフレア発生についても予測できる手法開発が喫緊の課題である。より長期的な、数か月~数年単位の太陽活動予報もニーズがあるだろう。さらに100年に1度起こる超巨大フレアといったデータの少ない極端イベントをいかに予測するかも、今後の課題である。また人工知能技術の進化の速さも見過ごせない。Deep Flare Netでは独自の深層学習手法を用い、太陽物理で有効だと考えられてきた抽出特徴量、予報運用ノウハウを注ぎ込むことで高精度予測に成功した。いわば、太陽研究の歴史に基づいた成功だと言える。その一方で、太陽磁場画像から特徴を自動抽出する純粋AI予測モデルが海外では論文発表され[28][29]、説明可能な人工知能(Explainable AI)の応用も始まろうとしている。これによって益々AI技術と人のノウハウの差は狭まり、今までできなかったような解析も可能になるだろう。現在、宇宙ビジネスにおいても転換点を迎えている。民間宇宙船で人を輸送し、衛星コンステレーションが打上げられるなど、地球低軌道や月面での宇宙ビジネスが注目を集めている。そうした中、宇宙天気予報の基盤技術となる太陽フレア予測の重要性は増してくる。フレア発生とほぼ同時に起こる通信障害や放射線被ばく、さらにCME到来による衛星運用や衛星測位サービスへの影響など、太陽フレア予測によって被害を防ぐ、また軽減できる余地は大きい。今後は太陽観測データに加え、様々な宇宙環境や社会インフラデータ4図5太陽フレア予報運用モデルDeep Flare Netのウェブ画面(https://defn.nict.go.jp ; Nishizuka et al. 2021 EPS [24]より引用改訂)1534-3 太陽フレア発生予測
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