あることがわかった。また、複数の点に対しても(b-3)及び(c-3)に示すように、出力パワーが極大となる方向はそれぞれの送信局の位置と一致し、フーリエ法適用の妥当性が示唆される。OXモード分離のイオノグラムを用いた電離圏パラメータ自動抽出手法の改善3.1従来の自動読み取りとその課題イオノグラムから電離圏の状態を定量的に評価するためには、電離圏エコーの各パラメータを読み取る必要がある。歴史的には、読み取り専門家がイオノグラムから目視で読み取る「手動読み取り」を継続しており、その「手動読み取り値」は、毎月、電離圏月報として出版されている[11]。電離圏月報に掲載される電離圏パラメータは、地球環境の長期的な変動を監視する上で、また、短波帯無線通信の重要な情報源として貴重な存在である。一方、読み取り専門家には、訓練及び熟練が必要なため、その人材には限りがある。また、観測技術やインフラの向上により観測頻度が増加しているイオノグラムを全て手動読み取りすることはできない。さらに、「手動読み取り」を行うには時間がかかるため、宇宙天気情報のリアルタイム性を要請される昨今では、より一層「自動読み取り」の必要性が高まっている。自動読み取りの必要性は1970年代後半より指摘されており、その開発はNICTの前身である通信総合研究所時代から行われていた[12][13]。1980年後半には、画像の多段階処理により14のパラメータを自動抽出する手法を完成させ、定常観測のシステムに組み込んだ[14][15]。当時はフィルムで取得したイオノグラムを2値のデジタルデータに変換し、読み取りを行っていた。その後、イオノグラム自体がデジタル化され、イオノグラムの解像度も8ビット、16ビットと向上した。高解像度化したイオノグラムにフィルタなどを適用し、2値のイオノグラムにすることで、1980年代後半に開発された読み取り手法を活用し続けていた[8]。本自動読み取り手法の課題は、段階画像処理の最終段階で読み取るパラメータ、特に高さに関するパラメータの精度であった[13]。特に、スポラディックE層が出現してF層をマスクしてしまう場合や、スポラディックE層の2回反射がF層と共存してしまう場合は特に読み取り精度が悪かった。図8の(a)(b)(c)に、電波モード未分離の3種類のイオノグラムと、それぞれのfoF2とh’Fの手動読み取り値と自動読み取り値の比較を示す。ここで、foF2は、正常波のF層エコーの最も高い周波数(臨界周波数)、h’Fは正常波のF層エコーの最も低い見かけの高度である[1]。図8(a)ではfoF2もh’Fも自動読み取り手法と手動読み取り手法に大差はないものの、図8(b)では200 km付近に現れた二回反射のスポラディックE層をF層と取り違えてしまい、自動読み取りではfoF2を過小評価し、h’Fは読み取りに失敗している。さらに図8(c)の例では、発達したスポラディックE層の存在によりF層は存在しないと判3図8 イオノグラムの手動読取り値と自動読み取り値の比較(a)-(c)はモード未分離のイオノグラムに旧自動読み取り手法を適用した結果。(d)-(e)は(a)-(c)とそれぞれ同じ観測でモード分離イオノグラムに新自動読み取り手法を適用した結果。10 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究
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