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空機の宇宙放射線被ばくにとって重要となる。また、太陽放射線スペクトルは、時間的にも大きく変化する。太陽放射線現象開始直後は、エネルギーの高い放射線しか太陽から地球へ到来しないため、この時間帯では、エネルギースペクトルはきれいなべき分布を示さず、低エネルギー側のフラックスが少ないようなスペクトルを示す。時間の経過とともに、低エネルギー放射線も地球に到来する様になり、徐々にべき分布に近づいていく。さらに、太陽放射線は、太陽から地球へ伝搬する際に、惑星間空間磁場の乱れによってピッチ角散乱を受けながら地球に到来する。そのため、太陽放射線現象開始直後は伝搬中にほとんど散乱を受けていない粒子が届くことになり、粒子のピッチ角は0度に近いものが多数を占め、非常に大きなピッチ角分布異方性を示す。その後時間が経つにつれ、粒子のピッチ角分布は徐々に等方的になっていく。このように、太陽放射線フラックスやエネルギースペクトル、角度分布は現象ごとに、また、短い時間スケールで、大きく変動するため、太陽放射線による被ばく線量率の推定は、短い時間スケールでは一定と考えて良い銀河宇宙線による被ばく線量率の推定と比較して、様々な難しさがある。2.2地球磁気圏・大気圏内での宇宙放射線挙動銀河宇宙線や太陽放射線などの一次宇宙線は、惑星間空間を伝搬し、やがて地球近傍に到達すると、地球磁気圏内を伝搬し地球の大気上層に到達する。一次宇宙線は荷電粒子であるため、地球の磁気圏内を伝搬する際に磁場の影響を受け伝搬軌道が変化する。それにより、地球大気上層に到達した際には、緯度、経度によってフラックスが異なってしまう。例えば、北極や南極などの高緯度地域では一般的にフラックスが大きくなり、逆に赤道付近の低緯度ではフラックスが小さくなる。このように、一次宇宙線のフラックス分布は、地球磁気圏外ではおおむね一様であったとしても、地球大気上層では緯度、経度依存性が大きく現れる。磁気圏内を通過し大気上層に到達した一次宇宙線が地球大気に飛び込むと、大気を構成する様々な原子、分子と衝突して、空気シャワーと呼ばれる核反応の連鎖を起こし、大量の中性子やμ粒子、γ線などを発生させる。これらを二次宇宙線と呼び、この二次宇宙線が航空機などの被ばく線量率の増加を引き起こす。モンテカルロ法を用いた放射線挙動解析コードPHITS[9]を用いて計算した空気シャワーの例を図3に示す。太陽放射線の到来による空気シャワーによって生成された中性子の増加は、地上に設置された中性子モニターで容易に観測され、これをGround Level Enhancement(GLE)と呼び、航空機高度での被ばく線量増加のシグナルとして用いられることが多く、そのため、中性子モニターのデータから自動的にGLEを検出し、アラートを発するシステムなども開発されている[10][11]。航空機被ばく線量評価モデル3.1従来モデル地上から航空機高度での被ばく線量の大部分は中性子が担っているため、地上での被ばく線量は、地上に設置されている中性子モニターによる観測を用いて推定することも不可能ではない。一方で、航空機高度での被ばく線量については、中性子モニターが航空機に搭載されているわけではないため、航空機高度での中性子の観測を基にした被ばく線量の推定は困難である。そのため、航空機高度での被ばく線量は、数値計算を基に推定されることになり、世界各国で銀河宇宙線及び太陽放射線による被ばく線量評価モデルが開発されている。例えば米国では、NASAによって開発が進められているNAIRAS[12]や、米国連邦航空局が開発しているCARI-7ベースモデル[13]などがある。また欧州では、オーストリア・サイベルスドルフ研究所によって開発されているAVIDOS[14]や、フランス・パリ天文台が開発しているSiGLE[15]などがある。日本では、任意の航路に対して銀河宇宙線による被ばく線量を計算可能なプログラムJISCARD(Japanese Internet System for Calculation of Aviation Route Doses)が放射線医学総合研究所で開発され、航空機乗務員の被ばく線量管理に活用されている[16]。JIS-CARDは、PARMA(PHITS-based Analytical Radia-tion Model in the Atmosphere)[17]と呼ばれる、大気中での二次宇宙線のスペクトルなどを計算することが出来るソフトウエアに基づいており、これを用いるこ3101102103100102104106108Proton energy (MeV)Fluence (cm−2MeV−1)Feb. 1956Nov. 1960Aug. 1972Oct. 1989図2 過去に発生した巨大なイベントの地球近傍における太陽放射線フルエンス(Tylkaモデル[8]による推定値、図1と横軸のスケールが異なることに注意)1594-4 太陽放射線被ばく警報システムWASAVIESの開発

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