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とで大気圏内任意地点における宇宙線被ばく線量率を推定している。PARMAは、図3に示すようなPHITSコードを用いて実施した空気シャワーシミュレーション結果に基づいて構築されており、被ばく線量評価のみならず、半導体ソフトエラー発生率や年代測定のための宇宙線起因核種収率の推定など、幅広い分野で応用されている。しかし、太陽放射線による被ばく線量を推定可能な国産のシステムは存在せず、その開発が望まれていた。3.2WASAVIESの概要このような背景から、太陽放射線による被ばく線量を評価する国産システムとして、情報通信研究機構、日本原子力研究開発機構、国立極地研究所など複数の機関の協力の下、WASAVIES(Warning System for Aviation Exposure to Solar Energetic Particles)が開発された[18][19]。WASAVIESは、定常的に起こっている銀河宇宙線による被ばく線量率をPARMAモデルで計算するのみならず、太陽放射線の突発的な増加をリアルタイムに検出し、それをトリガとして地表から高度100kmまでの地球上のあらゆる場所における太陽放射線による被ばく線量を、太陽フレア発生直後からリアルタイムに推定するシステムである。前述の欧米で開発されている被ばく線量率を推定する数値モデルの多くは、地上の中性子モニターかGOESによる高エネルギー粒子のどちらかの観測データを航空機高度まで外挿することで被ばく線量率を推定している。また、前述した太陽放射線エネルギースペクトルの時間変化等も考慮されていない。一方で、WASAVIESはこれらのシステムとは異なり、地上の中性子モニターで太陽放射線量の増加を検出した直後にGOESの観測データも用いて、その間を数値シミュレーションによって内挿することで、地表から高度100kmまでの地球上のあらゆる場所での被ばく線量率を推定している。人工衛星高度と地上の間を内挿するために、三つの数値シミュレーションが用いられている。1番目は、太陽放射線の現象ごとの変動及び時間発展を計算するもの[20]、2番目は、地球磁気圏内の伝搬による、地球大気上層での太陽放射線フラックスの緯度、経度依存性を計算するものであり[21]、これらは太陽放射線被ばくの計算時にのみ用いられる。3番目は、地球大気に突入した太陽放射線が大気中で空気シャワー反応を起こして二次宇宙線を生成、それによる被ばく線量率を計算するものである[22]。3番目のコードは、太陽放射線に限らず銀河宇宙線による被ばく線量率の計算時にも用いられる。以下にそれぞれのシミュレーションについて簡単に説明する。1太陽近傍から放出された太陽放射線の惑星間空間の伝搬を記述する、focused transport方程式を解くことで、地球近傍でのエネルギースペクトル、フラックス及びそのピッチ角異方性の時間発展を再現する。2太陽放射線が、変動する地球磁気圏内を地球大気上層部まで伝搬することによって現れる、太陽放射線フラックスの緯度、経度依存性を、太陽放射線の軌道を追跡することで再現する。3PHITSコードを用いて、太陽放射線が地球大気内で起こす核反応(空気シャワー)を再現することで二次宇宙線のフラックスを計算するととも図3 一つの宇宙線(100 GeV/nの炭素イオン)が引き起こす空気シャワー(エネルギーフルエンス)をシミュレーションした例160   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)4 太陽・太陽風研究

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