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断し、foF2もh’Fも読み取りに失敗している。自動読み取り手法は国内外の研究者により開発されており[16]–[19]、観測的な電波モードの分離可否が読み取り手法の精度の鍵を握ることは示唆されていた[19]。そこで、VIPIR2の正常波・異常波分離後のイオノグラムを用いると解決されると期待できる。図8(d)(e)(f)は、図3(a)と同様に、正常波を赤で、異常波を緑色で示したイオノグラムで、それぞれ、図8(a)(b)(c)に対応している。例えば図8(f)を用いると、図8(b)で発生したようなスポラディックE層とF層の混同が起こりにくくなると期待され、図8(g)を用いると、F層の存在が明確に認識できる。さらに、近年技術開発の著しい機械学習の技術を用いて「画像認識」を試みることで、これまでの「画像処理」では捉えられなかった特徴を捉えられると期待でき、従来の手法の課題解決が期待される。以後、1980年代に実装化された従来の自動読み取り手法を「旧自動読み取り手法」と記す。3.2機械学習を用いた自動読み取り手法今回開発した、正常波・異常波分離イオノグラムと機械学習を用いた自動読み取り手法(以後、「新自動読み取り手法」と記す)の流れを図9に示す。まず、受信された全ての信号のイオノグラム(a)から、ノイズ除去したイオノグラム(b)、さらに正常波成分のみを抽出したイオノグラム(c)と異常波成分のみを抽出したイオノグラム(d)を作成する。それぞれをE領域検出モデル、正常波F領域検出モデル、異常波F領域検出モデルの入力とする。モデルは、Faster-RCNN(Region with Convolution Neural Network)と呼ばれる一般物体検出モデル[20]で、画像の中から、何がどの位置にあるかを検出する。例えば、図9(c)のイオノグラムを入力とするF領域正常波検出モデルであれば、図9(e)で示すように、正常波のF層のエコーがどこにあるかを矩形で出力する。その出力を受け、矩形の右限の周波数と下限の見かけ高さを読み取ることで、foF2とh’Fとする。モデルの構築のためには、入力となるイオノグラムと、その出力矩形の位置が既知であるデータセットが必要である。そこで、読み取り専門家による手動読み取りデータを用いて再現した矩形データと、それに対応するイオノグラムを教師データとして用いた。対象のイオノグラムは、2018年1年間に国内4観測点で取得されたイオノグラムである。特徴の似ているイオノグラムを多数教師データとしても学習効果は低いため、特徴の異なるイオノグラムを手動で10,000枚抽出した。モデル構築にはPythonのTorchvision v0.4.1[21]を用い、モデルの損失関数の値の減少が頭打ちになったところで学習を完了とした。3.3機械学習による自動読み取り手法の精度新自動読み取り手法を用いて、図8(d)、 (e)、 (f)のイオノグラムからfoF2及びh’Fを読み取った結果をそれぞれの図中に示す。読み取りに成功していた(a)図9 新自動読み取り手法の流れ(a)は観測データ、(b),(c),(d)は、3種類のモデルの入力となるノイズ除去イオノグラム、正常波成分イオノグラム、異常波イオノグラム。(e), (f), (g)では、それぞれのエコーの位置が矩形で示されている。112-1 VIPIR2による国内電離圏定常観測

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