制御システム5.1制御サーバ本システムは、山川電波観測施設の伝搬計測室に設置された合計4台のサーバ、アンテナを制御するアンテナ制御サーバ1台、分光器からの出力を受け取りデータファイルとして格納するデータ収集サーバ2台、データファイルを蓄積しポスト処理を行うデータ蓄積サーバ1台及びNICT本部(小金井)に設置されているデータ処理・解析サーバ1台の、計5台で制御されている。アンテナ制御サーバは、刻一刻と変化していく太陽位置の方位角(AZ)、仰角(EL)を一秒ごとに計算し、ローカルネットワークを介してアンテナコントロールユニット(ACU)に送信することで、常に太陽を追尾するようにアンテナを制御している。データ収集サーバは、MHz帯(2G64K)とGHz帯(4G4K)のそれぞれのデータを収集するために1台ずつ稼働している。分光器が出力するデータは、非常に広帯域で高時間分解能であるため、データサイズが1分間で約1.25 GByteと非常に大きく、十分な通信速度を確保する必要がある。そのため、他の通信、例えばアンテナ制御信号などの通信と干渉することがないように、分光器からの出力データ専用のネットワークを構成し、他の通信に干渉されないデータ転送を実現している。データ収集サーバで収集したデータはデータ蓄積サーバに転送され、この中でポスト処理等が行われている。ポスト処理としてはリアルタイムダイナミックスペクトルプロットの作成、後述のイベント自動検出ソフトウェアとそのためのリアルタイムデータフォーマット変換、そして観測終了後の高分解能データから低分解能データの作成を行っている。データ蓄積サーバからは、約1 PByteの容量を持つデータストレージをマウントしており、全高分解能データは、このデータストレージにおいて保存される。ただし、このストレージでも3年程度のデータしか保存できないので、最終的には、高分解能データについては、電波バーストが起こった時のデータのみ保存するようにしている。データ蓄積サーバで作られた低分解能データは、NICT本部に設置しているデータ処理・解析サーバに転送される。ここでデータは、低分解能データから最終的な公開用データに変換され、所定の場所に格納された後、後述の太陽観測データベースにおいて公開される。5.2遠隔制御本システムは無人の観測施設に設置された観測システムであるため、可能な限りすべての操作を遠隔地からリモートで行うことができるように設計されている。山川電波観測施設内に設置の4台のサーバ及びバックエンド部、フロントエンド部については、電源制御も含めたほとんどすべての操作をリモートでできるようになっている。特に、電源については、それぞれの機器の電源にインターネット経由で電源のON/OFFができるようにリブータを設置し、機器がハングアップした際にも安全に電源の再起動作業ができるようになっている。また、システムソフトウェアの起動、停止などについては、現地のサーバに遠隔からログインしてコマンドを入力するといった手間をかけずに、ウェブブラウザ上でクリックするだけでソフトウェアの起動、停止などの作業ができるようなウェブインターフェースを準備し、ソフトウェア起動方法などの知識がなくてもシステムの起動、停止などができるように作られている(図14)。イベント自動検出6.1概要太陽活動の継続監視手段のひとつとして、II型太陽電波バーストの自動検出システムの開発に成功している。II型電波バーストは、太陽から放出されたプラズマ雲(CME: Coronal Mass Ejection。コロナ質量放出ともいう。以下、CME)に先行する磁気流体衝撃波から放射されたものと考えられており、電子密度の比較的低いコロナで周辺プラズマ周波数(fp)のラングミュア波を励起し、電波へ変換されたものと解釈されている。II型電波バースト発生源の移動速度はおおよそ500から1,500 km/sと見積もられ、数日以内に地球へ影響を及ぼす太陽風じょう乱の前兆現象として観測される。バーストを自動検出することで、人工衛星による観測データが利用できるようになるよりも先にイベントの初期段階でCME前面衝撃波の伝搬速度を推定することができる。そして、衝撃波の地球への到来時刻の第0次推定も可能になる。II 型電波バーストは一般にVHF帯で強く検出され、何分間か継続して観測される。また時間とともに周波数が低くなる動的スペクトルを有しており、プラズマ周波数(fp) ∝時間の逆数(1/t)の関係のあることが指摘されている(Kellogg1980)。そこで、本研究では、分光画像からノイズを取り除きバーストの信号を強調したりするなどの複数の画像処理を行った後、この関係を利用することでII型バーストを検出している。56170 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)4 太陽・太陽風研究
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