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はじめに科学技術の発展とともに、人類の活動域は拡大を続けている。気球の発明により、すでに大空を行き交う術すべを得ていた人類は、物質だけではなく情報をやり取りする手段として空間を利用することを考えた。狼のろし煙や矢や文ぶみといった情報伝達手段は古来より用いられていたが、情報量や伝達距離、所要時間の面で限界があった。人類が情報伝達の新たな方法を手に入れたのは1895年[1]、イタリアのマルコーニによる無線通信の実験が成功したときである。以来、地球を取り巻く空間に無線通信による情報が飛び交うようになった。無線通信の発明に遅れること8年、1903年にライト兄弟により飛行機が発明され、人類はその活動域を更に広げることとなった。以後、スプートニク1号が1957年に打ち上げられ、人類はついに宇宙空間を利用するに至った。21世紀の現在、人工衛星による通信・測位技術が発展し、国際宇宙ステーションに代表される有人宇宙活動も、民間宇宙飛行会社の台頭によってその裾野を広げつつある。また航空機による人や物の流れは、世界経済を動かす原動力の一つとなっており、今この瞬間にも多数の航空機が大気圏を行き交っている。一方で視線を上空から地面に移すと、世界のグローバル化に伴い、石油パイプラインや送電線など、国境をまたぐ長大な建造物が網の目のように地表を覆っていることがわかる。これらは全て科学技術の発展とともに築き上げてきた現代社会の基盤となっており、一つでも欠けると我々の生活に多大な影響を及ぼし得る。事実、気象災害や戦争、テロまたは不幸な事故といった諸々の脅威が、社会基盤であるこれらの科学技術にダメージを与え、我々の生活を脅かした例は枚挙にいとまがない。そんな中で近年警戒されているのが、太陽起因の現象によって我々の社会が影響を受けるという事例である。例として、太陽表面での爆発現象によって放射された高エネルギー粒子による宇宙飛行士の被ばくや、太陽から噴出する高密度のガスによって地球の磁気圏及び電離圏が乱されることによる、通信や測位の障害等が挙げられる[2]。時々刻々と変化する太陽・地球間の環境を「宇宙天気(図 1)」と呼び、その変動を予測することを「宇宙天気予報」と呼ぶ。情報通信研究機構(以下、NICT)は、日本で唯一の宇宙天気予報を「業務」として行っている公的機関である。1宇宙天気予報業務は現代社会に不可欠な存在である。電力・通信・衛星測位・航空・宇宙利用といった我々の生活を支える科学技術は、宇宙天気すなわち太陽・地球圏環境のじょう乱に対して脆ぜい弱じゃくで、ひとたび大規模な宇宙天気じょう乱が発生すると現代社会に深刻な障害を引き起こすことがある。これらの被害を未然に防ぐ、あるいは軽減する目的で行われるのが「宇宙天気予報業務」である。本稿では、情報通信研究機構が日々行う宇宙天気予報業務の内容について概説する。Space weather forecasting service is an essential part of modern society. Technology that sup-port our lives, such as electric power, communication, satellite positioning, aviation, and space uti-lization, are vulnerable to the disturbance of the solar-terrestrial environment called “space weather”. Once a large space weather disturbance occurs, it can cause serious obstacles to modern society. To prevent or mitigate these damages, “Space weather forecasting service” is carried out. In this paper, we present an overview of the daily space weather forecasting service performed by the National Institute of Information and Communications Technology.5 定常業務5Operational Activities5-1 宇宙天気予報業務5-1Space Weather Forecasting Service大辻賢一 久保勇樹OTSUJI Kenichi and KUBO Yûki1775 定常業務

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