HTML5 Webook
19/238

ると、「TP」のサンプル数が(a)(c)から(b)(d)で増加している。一方で、(a)(c)に多く存在する「FN」が(b)(d)では顕著に減少していることがわかる。混合行列から評価できる定量的な指標はいくつかあるが、ここでは「成功率」(精度、Accuracyともいう)を採用する。成功率は(TP+TN)/(TP+FN+FP+TN)で定義される。表2(a)と(b)から計算される成功率は68%と91%、表2(c)と(d)から計算される成功率は22%と83%である。foF2もh’Fも成功率は上昇、特にh’Fの成功率が飛躍的に向上したと言える。次に、TPに分類されたイオノグラム、つまり手動読み取り値も自動読み取り値も存在するデータに対し、それぞれの読み取り値の誤差の分布で評価を行う。図11は、手動読み取り値と自動読み取り値の差の絶対値の累積分布を示したもの、(a)はfoF2について、(b)はh’Fについてである。(a)では分解能は0.2 MHz、目安として誤差が0.5 MHzの部分に縦線を引いている。旧自動読み取りでは、誤差が0.5 MHz以下となるものが92%であったのに対し、新自動読み取り手法では95%にまで上昇している。これは、世界的に広く使われている読み取りソフト「ARTIST」の90%[22]を上回り、世界的に見ても良い読み取り手法であると言える。ただし、「ARTIST」は、電子密度プロファイルを読み取る機能を有しており、ここでは、パラメータ抽出機能についてのみ比較を行っている。図11(b)では、h’Fについて1 kmの分解能で手動読み取り値と自動読み取り値の誤差の絶対値の累積分布を示しており、誤差が10 kmのところに縦線を引いている。誤差が10kmとなるものは旧手法では35%しかなかったものが新手法では68%となっており、飛躍的に誤差も小さくなったことがわかる。ここではfoF2とh’FのF層の主要なパラメータの結果のみを示したが、他のパラメータfmin、 foEs、 h’Esも同様に成功率及び誤差が改善している[23]。ここで、fminとはイオノグラムに記録された電離圏エコーの最低周波数、foEsとは、スポラディックE反射正常波成分の最も高い周波数、h’EsはfoEsを読み取ったエコーの最も低い見かけ高さのことである[1]。3.4宇宙天気情報としての提供本手法は2020年1月1日以降、イオノゾンデ観測データに適用され、自動読み取り手法として公開している[24]。図12にその例を示す。赤色が新自動読み取り手法によって読み取られたfoF2、黒線が基準値としての過去27日間の中央値である。赤点と黒線の値に応じて、背景に灰色で基準が示されており、基準よりfoF2が大きく(小さく)なると電離圏嵐基準が明記される仕組みとなっている。図12のカラーバーの右側に示すように電離圏嵐の基準には7段階(IN3、 IN2、 IN1、 I0、 IP1、 IP2、 IP3)あり、月に1回程度の頻度で起きる規模の正相嵐(負相嵐)をIP2(IN2)、年に1回程度の頻度で起きる規模の正相嵐(負相嵐)をIP3(IN3)と定義している[25][26]。図12の場合は、月に1回程度の正相嵐が起きたことがわかる。まとめ本稿では、イオノゾンデ観測の長い歴史の流れの中で、最前線として設置されたVIPIR2について、その概要と観測の現状をまとめた。VIPIR2の強みの一つ、マルチチャンネルを利用し、VIPIR2ならではの新しい観測結果を複数示した。モード分離のイオノグラムと機械学習の機能を用いて、長年の課題であった自動読み取り手法の技術も飛躍的に向上した。本稿で扱った項目以外にも、近年では、電子密度プロファイルの導出やソフトウェア受信機による斜入射観測の充実など、研究開発を進めている。長年継続しているイオノゾンデ観測の歴史を守りつつ、新しい技術を取り入れて、より高度な電離圏観測を行っていきたい。謝辞現在、イオノゾンデによる定常観測業務は総務省からの委託業務「電波伝搬の観測・分析の推進」に基づき実施されております(R1-0155-0112、 R2-0155-0133)。VIPIR2の導入においては、石井守電磁波伝搬研究センター長、加藤久雄元主任研究員、近藤巧元研究技術員、丸山隆協力研究員、Scion社のRobert Livingston氏、米国海洋大気庁のTerry Bullet氏にご尽力いただきました。データ解析においては、リモートセンシング室の山本真之主任研究員に多数のご助言をいただき4表2 自動読み取りと手動読取りの混合行列(a)と(b)はfoF2、(c)と(d)はh’F、 (a)と(c)は旧自動読み取り手法、(b)と(d)は新自動読み取り手法によるもの。132-1 VIPIR2による国内電離圏定常観測

元のページ  ../index.html#19

このブックを見る