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電離させて極冠電波吸収と呼ばれる短波通信障害を引き起こす。プロトン現象は太陽フレアに伴って発生するため、太陽フレアが発生すると予測される際にはプロトン現象の発生予報も検討される。太陽フレアの発生を予測したうえで、さらにプロトン現象を生じさせるかどうかの判断をするため、現状では精度の高い予測が困難な現象であり、予報スキームの改良が求められている。表4にプロトン現象の規模と予報レベルの対応を示す。3.2.3磁気圏領域―地磁気じょう乱地磁気じょう乱現象は太陽風の変動と密接に関連しているため、太陽風の時間発展をいかに精度よく予測するかが予報精度向上の鍵となる。太陽風の速度・密度・温度や磁場強度・方向の観測データが存在しなかった時代は、太陽の自転運動により太陽風のパターンに27日周期の再現性がみられることから、太陽風速度の周期性を仮定して地磁気じょう乱の予報を行っていた。また、太陽の可視光及び電波観測によるフレアや電波バーストの検出からも地磁気じょう乱の発生を予測していた。その後ACE衛星(1997年打ち上げ)やDSCOVR衛星(2015年打ち上げ)によるその場観測が行われるようになり、太陽風のデータを常時取得できるようになると、高速太陽風やCMEの到来をデータ上で確認することが可能となり、地磁気じょう乱の予報精度向上につながった。また、太陽観測衛星によるコロナグラフや極端紫外線画像により、CMEの発生や高速太陽風の源であるコロナホールが観測されるようになり、STEREO衛星による惑星間空間の多角的な観測が実現するに至り、予報精度の更なる改善がなされた。このように判断材料となるデータが多岐にわたり、ジグソーパズルのピースを組み合わせるように予報内容を作り上げていくため、一筋縄ではいかないが、その分やりがいのある予報領域である。近年では数値計算による太陽風予測[17][18]が大きな役割を担っており、観測と数値計算の両輪をもって精度の高い予報を行う地磁気じょう乱予報は、宇宙天気予報の花形とも言える。予報基準としては気象庁地磁気観測所柿岡(茨城県石岡市柿岡)が発令する地磁気K指数を用い、表5のように5段階での予報が行われている。3.2.4磁気圏領域―放射線帯電子放射線帯電子は、地球を取り囲む放射線帯の高エネルギー電子を指し、衛星帯電による機能障害の原因となる。放射線帯電子のレベルの基準として用いられるのは、米国の気象衛星GOESで観測される静止軌道での2 MeV以上の電子フラックスデータである。衛星帯電は電子フラックスの値そのものに左右されるというよりは、フラックス値を時間積分した電子フルエンスの量に影響を受けるため、予報基準は、2 MeV以上のエネルギーを持つ放射線帯電子の24時間フルエンス値が用いられる(表6)。放射線帯電子の予報を行う上で参考とするのは太陽風の予測であり、高速太陽風が継続すると放射線帯電子が増加し、地磁気じょう乱で放射線帯電子が消失することから電子フルエンスの増減を予測している。このため、放射線帯電子予報においても太陽風の時間発展を精度良く予測することが必要とされる。3.2.5電離圏領域―電離圏嵐電離圏嵐(電離圏じょう乱)の予報はNICTが電波研究所であった時の電波警報をルーツに持ち、宇宙天気予報業務の中核を担う業務である。電離圏嵐に関する予報は、通信、放送、衛星測位業界のみならず、アマチュア無線家などからもよく利用されている[15]。電離圏嵐とは、電離圏の中で電子が最も多いF領域において、通常より顕著に電子密度が減少、或いは増加する現象のことを指す。電子密度が減少する場合は「負相嵐」、電子密度が増加する場合は「正相嵐」と呼ばれる。負相嵐の発生時には、F領域の臨界周波数が小さ予測されるプロトン現象の規模プロトン現象予報レベル10 MeV以上のプロトン粒子フラックスが10 PFU未満1:静穏10 MeV以上のプロトン粒子フラックスは上昇する2:警戒10 MeV以上のプロトン粒子の最大フラックスは10 PFU以上で推移3:継続表4 プロトン現象の規模と予報レベル予測される地磁気K指数の最大値地磁気じょう乱予報レベル3以下1:静穏42:やや活発53:活発64:非常に活発7以上5:猛烈に活発表5 地磁気じょう乱予報レベル予測される24時間電子フルエンス値(個/cm2/sr)放射線帯電子予報レベル3.8×107未満1:静穏3.8×107-3.8×1082:やや高い3.8×108-3.8×1093:高い3.8×109以上4:非常に高い表6 放射線帯電子予報レベル1855-1 宇宙天気予報業務

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