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くなるため、通常電離圏で反射される電波が周波数によっては反射されなくなり、正相嵐の発生時には、電離圏を通過する電波の電離圏での遅延量が増大するため、衛星測位の誤差が増大する可能性がある。電離圏のじょう乱は、地磁気じょう乱だけでなく、大気変動の影響も受けるが、現状では、地磁気が大きく乱れると予想される場合に、電離圏嵐が発達すると予報している。太陽・地球を結ぶ宇宙天気的因果関係の最下流であり、上流側のプロセスの予報精度を一つひとつ確実に向上させることが、より精度の高い電離圏嵐の予報を実現するために求められる。NICTではI-scale[22]という指標を考案し、電離圏の全電子数(TEC)及び電離圏F層臨界周波数(foF2)の変動を規格化して予報基準として用いている。詳しい解説は宇宙天気予報センターHP*10に譲る。表7にI-scaleを用いた電離圏嵐の予報基準を示す。3.2.6電離圏領域―デリンジャー現象デリンジャー現象は大規模な太陽フレアに伴って発生する短波帯電波による通信の途絶であり、太陽フレアで放射されたX線によって電離圏最下部のD層(高度60-90 km程度)で電離が大幅に進行し、短波帯電波を吸収してしまうことで発生する。デリンジャー現象の予報は太陽フレア予報と関連しており、Mクラス以上のフレア発生を予測した場合、デリンジャー現象の発生を考慮して予報を行う。3.2.7電離圏領域―スポラディックE層スポラディックE層は、高度約100 kmに局所的かつ突発的に電子密度の高いE層が形成される現象で、日本付近では春から夏にかけて昼や夕方に発生する傾向にある。スポラディックE層の発生には、高度100km付近における大気の流れのパターンが重要な役割を担っていることから、厳密には宇宙天気の枠組みには収まらないが、アマチュア無線家やラジオ放送愛好家からは、通常不可能な遠距離通信や放送受信を可能としてくれる現象として歓迎される存在でもある。スポラディックE層は現在、現況ベースでの予報を行っており、日本各地(稚内、国分寺、山川、大宜見)のイオノゾンデ観測施設におけるEs層臨界周波数(foEs)の最大値が8 MHzを超えた場合、スポラディックE層が発生すると予報している。3.3イベント通報サービスイベント通報サービスは、定められた基準値を上回る宇宙天気現象が発生した場合に、自動メール配信システムを通じて即時に現象発生を通知する業務サービスである。現在自動通報される現象は、太陽フレア開始速報、太陽フレア速報、プロトン現象速報及び放射線帯電子速報の4種類である(表10)。宇宙天気予報業務の今後の展望これまで紹介してきたように、NICTにおける宇宙4予測されるI-scale電離圏嵐予報レベル2時間以上継続してIP2以上またはIN2以下の乖離とならない1:静穏IP2またはIN2が2時間以上継続2:活発IP3またはIN3が2時間以上継続3:非常に活発表7 電離圏嵐予報レベル予測されるデリンジャー現象の発生確率デリンジャー現象予報レベル30%未満1:静穏30%以上50%未満2:やや高い50%以上3:高い表8 デリンジャー現象予報レベル予測されるfoEs国内最大値スポラディックE層予報レベル8 MHz未満1:静穏8 MHz以上3:非常に活発表9 スポラディックE層予報レベルイベントイベント検出条件速報の内容太陽フレア開始速報X線強度レベルがMクラス(活発)以上に達した場合開始時刻太陽フレア速報Mクラス(活発)以上のフレアが終了した場合開始・最大・終了時刻最大強度プロトン現象速報10 MeVのプロトン粒子フラックスが10 PFU以上に達した場合開始・最大・終了時刻最大フラックス放射線帯電子速報2 MeV以上の電子の24時間フルエンスが高いレベル以上及び非常に高いレベル以上に達した場合開始・終了時刻表10 イベント通報サービス一覧*10https://swc.nict.go.jp/knowledge/i-scale.html186   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)5 定常業務

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