天気予報業務は、最先端の宇宙天気研究を踏まえ絶えずアップデートされており、人類社会の宇宙進出に向けて、より精度の高い宇宙天気予報業務を実現するべく発展を続けている。深層学習を用いた太陽フレア発生予報[16]がより進展することで、デリンジャー現象やプロトン現象といったリードタイムが短い宇宙天気現象に対しても予報を行うことが可能になると期待される。また、太陽表面でのフィラメント噴出現象の予測手法[23]を宇宙天気予報業務に取り込むことで、フレアを伴わない噴出現象ひいてはCMEの発生予測につなげることができる。太陽風予測に関しては、数値シミュレーション[17]にアンサンブル予測を組み入れることで、高速太陽風やCMEの到来を確率的に予報することが可能となる。また、宇宙天気予報を観光資源に結び付ける手法として、磁気圏MHDシミュレーション[24]及び経験モデルを用いたオーロラ予報[25]が注目される。さらに、将来的に重要性がさらに高まるとみられるのが、航空機への宇宙線被ばく線量率を推定し警報を発信するシステム「WASAVIES[26]」である。新世代の超音速旅客機が就役する近い将来、このシステムによって空の安全が担保されるようになると期待される。また、予報全般に関して、現在の活動レベルの予報から確率予報への移行も検討されている[15]。より業務に近い部分に関して取り上げると、本部(小金井)のバックアップ機能をもつ神戸副局を更に拡充させ、より高いレジリエンス(耐障害性・障害回復力)を備えた宇宙天気予報業務システムを構築することが求められている。NICTにおける宇宙天気予報業務はいまだ発展途上にあり、国際的な協力の下、持続可能な開発目標(SDGs)を踏まえて更なる飛躍を期したい。謝辞本業務は、総務省委託業務「0155-0099電波伝搬の観測・分析等の推進」によって⾏われたものである。参考文献】【1井上信雄, “情報通信技術はどのように発達してきたのか,” ベレ出版, 2016.2石井 守, “地上ICTに役立つ「宇宙天気予報」〈1〉,” 電波技術協会報, 2020.3滝澤 修, “我が国における宇宙天気予報の前史~電離層観測の黎明期を中心に~,” 情報通信研究機構研究報告, vol.67, no.1, 本特集号, 5–5, 2021.4滝澤 修, “平磯無線100年の前半史, 平磯の100年~その歩みと回想集~,” 2015.5丸橋克英, “平磯無線100年の後半史, 平磯の100年~その歩みと回想集~,” 2015.6大林辰藏, “電波警報について,” 電波研究所季報 第1巻 第1号, 1954.7長妻 努, 大山きよ子, 岡野朱美, 秋岡眞樹, “宇宙環境予報業務,” 通信総合研究所季報, vol.43, no.2, 1997.8木所 常一, 森 弘隆, “電波警報業務の概要,” 電波研究所季報, 第32巻, 第162号, 1986.9塩田大幸, 坂口歌織, “過去の宇宙天気資料電子化プロジェクト,” 情報通信研究機構研究報告, vol.67, no.1, 本特集号, 5-4, 2021.10川崎和義, “テレホンサービスシステムのこれまでの運用,” 通信総合研究所季報, vol.48, no.4, 2002.11久保勇樹, “解説 宇宙天気予報, 電気学会誌,” 140 巻, 2 号 pp. 96–99, 2020.12徳丸宗利, 川崎和義, “宇宙天気予報のための宇宙環境モニターデータ伝送システムの開発,” 通信総合研究所季報, vol.39, no.2, 1993.13秋岡眞樹, 近藤哲朗, 佐川永一, 久保勇樹, 岩井宏徳, “宇宙天気予報のための可視光と電波による太陽観測,” 通信総合研究所季報, vol.48, no.4, 2002.14石井 守, 田 光江, 長妻 努, “宇宙天気の国際動向,” 情報通信研究機構研究報告, vol.67, no.1, 本特集号, 5–3, 2021.15久保勇樹, “地上ICTに役立つ「宇宙天気予報」〈2〉”, 電波技術協会報, 2020.16西塚直人, “太陽フレア発生予測,” 情報通信研究機構研究報告, vol.67, no.1, 本特集号, 4–3, 2021.17塩田大幸, “太陽嵐到来予測システム,” 情報通信研究機構研究報告, vol.67, no.1, 本特集号, 4–1, 2021.18田 光江, “高速太陽風予測のための数値シミュレーション,” 情報通信研究機構研究報告, vol.67, no.1, 本特集号, 4–2, 2021.19D. Odstrcil, “Modeling 3-D solar wind structure,” Adv. Space Res., vol.32, no.4, pp.497–506, 2003.20陣 英克, “全球大気圏- 電離圏シミュレーション,” 情報通信研究機構研究報告, vol.67, no.1, 本特集号, 2–3, 2021.21潰田一輝, “詳解 ウルシグラム・コード,” CQ出版, Nov., 1984.22M. Nishioka, T. Tsugawa, H. Jin, and M. Ishii, “A new ionospheric storm scale based on TEC and foF2 statistics,” Space Weather, vol.15, no.1, pp. 228–239, 2017.23D. Seki, K. Otsuji, H. Isobe, T. T Ishii, K. Ichimoto, and K. Shibata, “Small-scale motions in solar filaments as the precursors of eruptions,” PASJ, vol.71, no.3, 2019.24中溝 葵, “磁気圏MHD シミュレーションの研究開発,” 情報通信研究機構研究報告, vol.67, no.1, 本特集号, 3–1, 2021.25坂口歌織, “オーロラ予報「オーロラ・アラート」,” 情報通信研究機構研究報告, vol.67, no.1, 本特集号, 3–4, 2021.26久保勇樹、佐藤達彦、片岡龍峰、塩田大幸、石井 守、保田浩志、三宅晶子、三好由純, “太陽放射線被ばく警報システムWASAVIESの開発,” 情報通信研究機構研究報告, vol.67, no.1, 本特集号, 4–4, 2021.大辻賢一 (おおつじ けんいち)電磁波研究所電磁波伝搬研究センター宇宙環境研究室研究員博士(理学)太陽物理学久保勇樹 (くぼ ゆうき)電磁波研究所電磁波伝搬研究センター宇宙環境研究室研究マネージャー/宇宙天気予報グループグループリーダー博士(学術)太陽物理学、予報評価技術1875-1 宇宙天気予報業務
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