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はじめに国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、日本で唯一の宇宙天気予報を業務として行っている公的機関である。NICTでは、その前身である郵政省電波研究所が発足した1950年代初めごろから、短波通信障害を事前に察知して利用者に伝える電波警報業務を行ってきた。この業務は、1988年、宇宙天気予報業務と名前を変えると同時に、短波通信障害を引き起こす原因となる太陽活動や地磁気じょう乱にまで予報・警報の範囲を広げていった。現在、NICTの宇宙天気予報業務は、短波通信障害や衛星測位の誤差増大の原因となり得る太陽活動、地磁気じょう乱、電離圏じょう乱などの情報以外に、人工衛星障害の原因となり得る放射線帯電子や、宇宙飛行士や航空機乗務員・乗客の宇宙放射線被ばくの原因となり得る太陽高エネルギー粒子など、様々な情報を発信している[1]。予報は、その予報精度や特徴に関する情報を伴うことで、より有用な情報となる。そのため、過去に発信した予報からその精度や特徴を正しく評価する技術が必要となってきている。このような技術は、気象予報の分野では1884年にJ.P. Finleyによって発表されたトルネード予報評価[2]以来、長い歴史を持ち、一つの研究分野として確立しているが、宇宙天気予報ではようやくその重要性が認識されてきたところである。本稿では、NICTが過去に発信した太陽フレア予報と、NICTで開発されている太陽フレア確率予報モデルを題材として、予報の精度や特徴を評価する技術について述べるとともに、今後の予報の在り方について議論する。NICT太陽フレア予報太陽フレアの規模は、米国の気象衛星GOESが観測している太陽フレアに伴って突発的に増加するX線フラックスに基づいて、表1のように決められている。NICTの太陽フレア予報は、ウルシグラムコードの基準(UGEOA)に従っており、予報発令時刻の6:00UTC(協定世界時)以降24時間以内に発生が予測される最大フレアの規模が4つのカテゴリー(静穏、やや活発、活発、非常に活発)のどこになるかを0か1かで予報する決定論的予報である。この形式での予報は1992年に始まり、現在も続いている。12自然現象の発生予報には、大きく分けて2通りの方法がある。現象の発生を0/1で予報する決定論的予報と、現象の発生確率を予報する確率予報である。現在のNICTの予報は決定論的予報が中心であるが、将来的な確率予報への移行を見据えて、確率予報モデルの開発なども行われている。本稿では、これまでNICTで行われてきた予報と、現在開発中の確率予報モデルを題材にして、宇宙天気予報評価技術について簡単に述べる。さらに、予報提供者視点での評価法だけでなく、予報利用者視点での評価法についても紹介する。There are two major methods to forecast natural phenomena; a deterministic forecast, which forecasts an event occurrence as yes or no, and a probabilistic forecast, which forecasts an event occurrence probability. NICT forecast has focused currently on the deterministic forecast. However, we have been developing the probabilistic forecast models of space weather phenomena for future transition from current deterministic forecast to a probabilistic forecast. In this paper, we briefly in-troduce a forecast verification method for a deterministic and probabilistic space weather forecast-ing. The verification in terms of forecast users as well as forecast providers is also introduced. 5-2 宇宙天気予報評価技術5-2Space Weather Forecast Verification久保勇樹KUBO Yûki1895 定常業務

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