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がE0よりも小さい)ならば、利用者はこの予報から利益を得ることができる。ここで、Relative economic valueを以下のように定義する。VEEEEminα,sss1αPOD1sαPOFDminα,ssαこの時、Vはα:=C/L(Cost-Loss比)の関数であり、Vが正の値をとるCost-Loss比を持つ利用者にとって、この予報は価値のあるものとなる(例えば[13])。以下では、上記の議論をNICT太陽フレア予報、AI太陽フレア予報モデルに適用し、利用者視点での予報の価値について議論する。図5は、NICT太陽フレア予報(Mクラス以上)に対する、Relative economic value曲線(以後REV曲線という)を表す。解析期間によって多少違いはあるが、大まかに言って、Cost-Loss比が0.1~0.6くらいを持つ利用者にとっては有益な予報となっているが、0.6より大きいCost-Loss比の利用者にとっては、この予報に従って回避行動を起こしても利益を得ることはできない。次にDeFN-Rに対するREV曲線を図6に示す。DeFN-Rは確率予報モデルであるので、0から1まで0.01刻みでしきい値確率Pthを取り、そのすべてについてREV曲線を計算した。図中の色付きの曲線はそれぞれPth=0.1, 0.3, 0.5, 0.7, 0.9に対するREV曲線で、黒実線はすべてのPthに対するREV曲線の包絡線である。黒点線は、あるCost-Loss比に対して、REV曲線の包絡線を与えるしきい値確率を書いてある。例としてもし、予報提供者が、しきい値確率0.1を用いて(図6赤線)確率予報から決定論的予報に変換した後の情報を発信していたとしたら、その決定論的予報から利益を得ることができるのは、Cost-Loss比0.3程度以下を持った利用者のみであり、それより大きなCost-Loss比の利用者にとっては、この予報に従って意思決定をしても利益は得られない。しかし、もし、予報提供者が決定論的予報に変換せずに確率予報のまま発信していたならば、利用者自身がそれぞれ持つCost-Loss比に応じた最適なしきい値確率に従って意思決定することで、ほぼすべてのCost-Loss比を持つ利用者が確率予報から利益を得ることができる。そのREV曲線が図中の黒実線になる。そして、利用者自身がそれぞれ持つCost-Loss比に応じた最適なしきい値確率は、図の黒点線になることがわかるだろう。利用者が最適な意思決定をするために必要なしきい値確率の情報を、確率予報とともに提供することで、利用者にとって確率予報は、決定論的予報よりも高い価値を持つことになる。そして、この利用者の最適な意思決定のためのしきい値確率は、実は確率予報の信頼度曲線の逆関数になっていることが数学的に示される。このことから、予報提供者視点での予報評価を行うことで、利用者の意思決定を最適化するしきい値確率の情報も得られることになる。まとめ今まで述べてきた予報評価手法は、現象が発生するかしないかの2カテゴリー予報としての評価である。しかし、前述のようにNICT太陽フレア予報は4カテゴリー予報であることから、多カテゴリー予報としての評価も必要である。例えば、決定論的予報の評価指標としては、Gandin-Murphy-Gerrity Score[14][15]などが提唱されている。確率予報の評価手法としては、Ranked Probability Score(例えば[10])が良く知られて4 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1Relative economic valueCost loss ratio2000-20022003-20052006-20102011-20152000-2015図5 NICT太陽フレア予報(Mクラス以上)に対するREV曲線 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1Relative economic value, Threshold probabilityCost loss ratioPth=0.1Pth=0.3Pth=0.5Pth=0.7Pth=0.9Env.Pth for Env.図6 DeFN-R(Mクラス以上)に対するREV曲194   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)5 定常業務

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