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欧州では特に英国が宇宙天気の社会影響についての文書を盛んに発表している。2013年には英国Royal Academy of EngineeringがExtreme space weather: impacts on engineered systems and infrastructureを発表し、極端現象の社会影響について報告した[5]。その後英国Cabinet officeによるNational Risk Register (2015年[6])、Space Weather Preparedness Strategy (2015年[7])が相次いで発表された。アジアでは韓国未来創造科学部が2013年に「宇宙電波障害」危機管理マニュアルを発表した。活発化する国連の活動2009年頃を境に、国連の複数の機関で宇宙天気に関する議論がほぼ同時に盛んになり、ワーキンググループの設立が相次いだ。世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)は2009年に宇宙天気プログラム間調整チーム(Inter-programme Coordination Team on Space Weather: ICTSW)を設立、年1回の会合のほか月1回のテレコンを開催するなど非常に活発な活動を展開し[8]WMO情報システム(WMO Information System: WIS)での宇宙天気情報の流通等を中心に検討を進めてきた。ICTSWは後述する国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization: ICAO)への情報入力の専門組織として重要な役割を果たしている。また、ICTSWは2015年からの4か年計画を検討しており、その中では組織の定常化が提案されて2015年に定常組織としてIPT-SWeISS(Inter-Programme Team on Space Weather Information, Systems and Services)が設立され[9]、現在に至る。ICAO[10]では、民間航空機の運航における宇宙天気情報の利用を検討してきた。これは主に、極域航路が増大する中で宇宙天気現象による短波通信、衛星測位及び宇宙放射線被ばくのリスクを回避することを目的としている。2011年11月に航空機運航に必要とされる宇宙天気情報に関して国際航空運送協会(International Air Transportation Association: IATA[11])からICAOに検討要望の書簡が発出され、議論が開始された。議論の結果、運用コンセプト(Concept of Operations: ConOps)及び航空運用に使用される気象情報を規定している国際民間航空条約第3付属書(Annex3)が改定された。これと並行して、情報を提供する組織の選定が進められてきた。2017年6月にICAOから加盟国に対して情報提供についての関心の有無を問うステートレターが発信され、22か国がこれに関心を表明した。書面審査、対面審査を経て、2018年11月に3つの組織がICAO Space Weather Global Centerとして承認を受けた(米国、PECASUS(フィンランド、オーストリア、ベルギー、キプロス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポーランド、英国)、ACFJ(オーストラリア、カナダ、フランス、日本))。その後調整会議を1年間重ね、2019年11月7日にサービスが開始された[12]。2020年4月29日にICAO councilは中国・ロシア連合(China-Russia Consortium: CRC) のグローバルセンター移行を承認した。現状の3センターの活動にCRCが支障なく合流するためのワーキンググループが宇宙天気センター協働グループ(SWXCCG)内に立ち上げられ、必要な手続きの検討を進めている。また、リージョナルセンターとして選出されていた南アフリカはPECASUSに合流する姿勢を見せている。さらに、ICAOグローバルセンター間での情報共有と予測モデルの比較の検討が開始された。現在、3センターは予報モデル及び観測データは各センターが独自のものを使用しており、共有されていないことから、予報の均一性に問題があるとSWXCCG内で議論が進められてきた。現在、モデルについて、現在使われている電離圏及び航空機被ばくモデルの結果を比較する議論がNICTのリードの下にSWXCCG内で継続している。併せて、リアルタイム電離圏データを共有するためのデータサーバをNICTに構築し、情報共有の試験を開始しつつある。もう一つの国連における活動としては、宇宙平和利用委員会(Committee on the Peaceful Uses of Outer Space: COPUOS)[13] が挙げられる。国連宇宙空間平和利用委員会(UN/COPUOS)は1959年の国連総会決議(1472)「宇宙空間の平和利用に関する国際協力により設立された国連総会直属の常設委員会である。会議はオーストリア・ウィーンにおいて開催され、本委員会(毎年6月頃に開催)の下に、科学技術小委員会(毎年2月頃に開催)及び法律小委員会3図1 宇宙天気に関連する国際組織198   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)5 定常業務

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