まえがき宇宙天気は、太陽から流れ出す「太陽風」の変動、それに加えて、爆発現象「太陽嵐」=「太陽フレア・コロナ質量放出(CME)」の影響を受ける。これらが地球に到来したときに磁気圏・電離圏に大規模なじょう乱(磁気嵐・電離圏嵐)を引き起こし、その影響が地上の送電網や通信・測位の乱れにつながることがある。最近では2017年9月に約 11年ぶりとなる巨大な太陽嵐(X9.3 太陽フレア)が発生し、日本で GPS の誤差増大が発生し社会的に注目を集めたことは記憶に新しい[1]。準天頂衛星測位システムに代表されるように宇宙利用の高度化が近年急速に進んでおり、社会インフラの宇宙天気じょう乱に対する脆ぜい弱じゃく性も併せて急速に増大している。一方で宇宙天気は航空管制の測位・通信・被ばくにも影響を及ぼすため、国際民間航空機関(ICAO)では航空運用の通常業務において宇宙天気情報の利用を開始する制度決定がなされ、2019年11月7日より情報発信が始まった[2]。このように宇宙天気の社会的重要性が高まる一方で、極めて大規模な太陽嵐は地震や台風や火山噴火と同じく自然災害という側面を持つ。規模の大きさに比例して社会的影響が地球規模まで大きくなるため、アメリカ合衆国政府がまとめた Strategic National Risk Assessment[3]の中では、地震や洪水等と併記されて、宇宙天気が自然災害リスクの一つとして認定されている。例えば、1989年3月に発生した大規模な磁気嵐ではカナダケベック州で広域の大停電が発生し約600万人がその影響を受けた[4]。このイベント以外にも地上の送電設備等に影響が及んだ記録がある。歴史的には、更に大規模な太陽嵐が1859年に発生したことが観測されており、その際、赤道付近でオーロラが観測され、電信設備が発火したという記録が残されている[5]。もし当時よりも社会インフラがはるかに高度に発展した現代において、同規模の現象が発生すれば、電力・衛星・通信分野で全世界的に損害が発生する大災害となる可能性もある。次の段落で述べるように、幸いにも第24太陽活動周期(2008~2019年)は過去の太陽活動周期に比べて活動度が低下していたため全体の発生頻度が低く、最大規模のX9.3フレア太陽嵐でも深刻な障1情報通信研究機構(NICT)では、過去70年以上前から電波通信の監視が継続されており、その活動は現在の宇宙天気予報に受け継がれている。当時のデータが紙に印刷された状態で倉庫に保管されている。宇宙天気じょう乱の源となる太陽活動は直近の第24太陽活動周期ではこの数十年で最も活動度が低かった。今後、太陽活動が上昇すると、宇宙利用が高度化した社会インフラが宇宙天気じょう乱の影響を大きく受ける可能性があるため、太陽活動度の高い時期の宇宙天気影響についての知見を深める必要がある。本研究では、紙に印刷され保管されていたデータを今後の研究に利用するため、電子化を進めている。本稿では、その背景と現在デジタル化の終わったデータの一部を紹介する。In NICT, the monitoring of high frequency radio telecommunication has been conducted for more than 70 years, and it has been passed on to the present space weather forecast. The past space weather data used in the monitoring are stored in a paper form. The solar activity of the Cycle 24 is lowest in 70 years. If the solar activity increases much higher in the future, infrastructures highly depending on space technology might be severely damaged. We must study space weather conditions in much higher solar activity for the future. In this project, we have been digitalizing the paper-printed space weather data for use in future space weather studies. Here, we describe the background and show samples of the digitalized data.5-4 過去の宇宙天気資料電子化プロジェクト5-4Digitalization of Historical Space Weather Records 塩田大幸 坂口歌織 福永 香SHIOTA Daikou, SAKAGUCHI Kaori, and FUKUNAGA Kaori2035 定常業務
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