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害・社会影響を引き起こすほどではなかった。図1は太陽黒点数の推移を示す。大規模な太陽嵐は黒点付近で発生するため、太陽黒点数の推移が太陽活動度の指標となっており、およそ11年ごとに増減を繰り返している。図1下段に1940年からのグラフを拡大したものを示し、前述の地上の送電設備等に影響が及んだ記録のある時期を示した。このように、必ずしも太陽黒点数が極大になることと地上に影響が及ぶ大規模な太陽嵐の発生とは、時期が一致しているわけではないが、黒点数が比較的多い時期に発生している。その一方で、各周期の極大の黒点数は活動周期ごとに変動していて、1980年以降の4周期で徐々に減少するのに伴い、その結果として大規模な太陽嵐の発生数も減少してきた。実際に、第24周期ではX線強度がX10クラスを超える太陽フレアは一度も発生しなかった。この傾向がこのまま続くかどうかは定かではないが、図1の270年間の黒点数の推移からも明らかなように、太陽活動度が今後再び増大する可能性もある。その結果、これまで経験したことのある巨大太陽嵐と同規模の現象が発生したとしても、社会情勢の違いから甚大な影響が及ぶ可能性は十分にある。そのために、過去に実際に太陽で発生したことがある太陽嵐とその影響を把握し、その危険性があれば警鐘を鳴らす体制を整えることは我々の責務であるといえる。そこで我々は、第24太陽周期よりもはるかに太陽活動が活発で、大規模な太陽嵐が多数発生していた過去の太陽周期のデータを現在の知見に基づいて解析を行うための環境を構築すること、そのデータ・環境を用いた事例解析を行うことを目的とし、その第一歩として、紙に印刷・記入された形で保存されていた過去の宇宙天気観測・予報データをデジタル化・デコード化して、ウェブ経由でアクセスを可能にする環境を構築する。宇宙天気予報黎れい明めい期の観測データ太陽や宇宙天気の観測技術は、20世紀前半までは地上の太陽望遠鏡など手段は限られていた。しかし、1957年の国際地球観測年(IGY)を機に世界的な観測網が整備され、宇宙機による観測の発展から、太陽風の発見[6]、宇宙空間からのコロナグラフ観測によるCMEの発見[7]が続き、1990年代以降の宇宙観測の拡充とともに、電離圏じょう乱をはじめとする宇宙天気現象が太陽からのガスの流れと磁場によることが徐々に理解されてきた。人工衛星による宇宙空間からの観測の技術は時代とともに向上してきており、現在は非常に豊富な観測情報がほぼリアルタイムで手にすることができる。2010年に打ち上げられたNASAの太陽観測衛星Solar Dynamics Observatory(SDO)により大量の太陽観測データがリアルタイムで供給され始めて、宇宙天気予報の環境が劇的に向上し現在にいたる。巨大太陽嵐が発生していた1940年代~1990年代は、地上からの観測が主流であり、当時その観測情報及び各局の予報情報は当時海外の宇宙天気の監視を行っていた研究機関との間で専用のTelex回線を通じて毎日情報交換を行っていた。その記録(URSIgram code)が、印刷された当時の紙でNICT本部(小金井)4号館1階のC2センター資料室に保管されていた。平成30年度にその資料室で眠っていた歴史的に貴重なデータを世に出すことを希望したことが本研究の着想に至った経緯である。発見当時はカビなど紙資料の劣化が激しいものがあったため、デジタル化作業に耐える程度の修復を施した(例:図2~4)。まず初めにデジタル化を行った資料は、1978~1998年の期間に作成された27日ごとの観測データをグラフにまとめたSolar activity chart(図3)である。このチャートは、上段が太陽の北半球の黒点群(活動領域とも言う、四角記号)と太陽フレア(丸記号)(縦軸が経度、横軸が日時)、中上段が太陽の南半球の黒点群と太陽フレア、中下段が平磯で観測された電離圏のじょう乱及び気象庁柿岡観2図1 太陽黒点数の推移(ベルギー王立天文台)と宇宙天気観測及びNICTの宇宙天気研究活動図2 修復前の電波警報日誌の最も古い資料204   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)5 定常業務

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