後この作業を自動化し、年代を遡ってSolar activity chartをデジタルで作成、Historical Spaceweather Viewerの中で公開する準備を進める。警報日誌現在のNICTが行っている「宇宙天気予報」業務の歴史をたどると、その前身は、昭和24年(1949年)12月に開始された電波庁電波部資料課による「電波警報」業務であることが分かってきた。日本国内の電波予報・電波警報に関わる取組は、終戦に近い昭和20年(1945年)7月頃に文部省学術研究会議の元に短波無線障害予知班が結成されるなど、戦中・戦前に記録を遡ることが可能ではあるはずだが、ここでは割愛する。電波警報の発出記録が記録された警報日誌は、NICT本部(小金井)4号館1階のC2センター資料室に、当時の担当者が手書きで記録したと思われる紙のファイルが保管されている。石橋主任研究員(当時)によると、これらは2016年に閉所された平磯太陽観測施設(茨城県ひたちなか市平磯町)の図書室から移動された資料の一部とのことである。2020年に同施設は解体され現在は敷地一体が更地となっている。現時点で見つけることができた最も古い日誌の日付は1951年5月12日(土)である(図2)。この日誌には、太陽活動・地磁気・地電流・電離層・電波強度に関する最新の情報と共に電波警報の発出記録が記されている。しかしながら、実は、この最も古い日誌には太陽活動や地磁気活動の予報発出記録は記載されていなかった。宇宙天気予報業務の前身が電波警報業務であることを説明するには、まず電波警報業務について知る必要がある。電波警報業務とは、電波通信状態が不安定になっている場合、もしくは不安定になるであろうと予想された場合に、電波通信利用者に対して提供する警報・予報情報のことである。電波通信による情報伝達は、インターネットが存在していない時代、遠方と即時に情報を交わす唯一の手段であり、産業・災害・軍事等へ非常に重要な役割を担っていた。電波を用いる通信手段を、常に安定的に利用するには、電波を反射させる電離圏の状態を熟知し、周波数や強度を調整する必要がある。そこで、電波予報によって通信可能な周波数帯等が通知されていた(月刊電波予報の創刊は1947年5月)。しかしながら、電波予報で予報されている周波数を利用すれば電離層が平穏な時は能率的に通信ができるが、地磁気嵐や太陽フレアなどの突発現象が発生により電離層は平穏状態から大きく変動し通信が途絶えてしまうことがあった。そのような突発的な現象を予知して、あらかじめ通信障害の警告をするのが電波警報業務の役目であった。最初の電波警報は、標準電波JJYに「W(激しい通信嵐)」「U(不安定な状態)」「N(平穏な状態)」のモールス符号の重畳発射することにより、通信状態を電波利用者に通達されていた。電波警報を速やかに発令するには、電波伝搬(電離層)に影響を及ぼす突発的な太陽面現象・地磁気変化・電離層変化に関する最新の情報をより早くより多く収集し、その推移を予測する必要があった。この取組が、太陽フレア及び地磁気じょう乱自体を予報することが目的である現在の宇宙天気予報の前身であると考えられる。図5に警報日誌の記録誌フォーマットの変遷をまとめた年表を掲載する。宇宙環境予報の発出記録は、ADVKOに始まるメモ書きとして記されているのが1957年頃の警報日誌の裏面に見つかった。その後、1958年の日誌からは表面に「ADVKO」を記載する欄が通常フォーマットとして用意されているのが分かった。URSIgramコードブック[8](図4)によると、ADVはAdviceの意味でKOは発出場所のKokubunji(当時の所在地、東京都北多摩郡国分寺町)を意味する。警報日誌の内容やフォーマットについては、IGYやURSIgramの策定・改訂等、太陽・地球観測に関わる連動した黎明期に高頻度で改訂が行われ、初期の日誌の内容を理解するには、まずデコードが必要である。しかしながら、現在見つかっている最も古いコードブックは1963年版であり、それ以前の記録を正確に理解するためには、今後更に古い時代のコードブックを見つける必要がある。図6はADV**に関する1963年版 のURSIgramコードブックの該当頁を示す。この頁では世界各地域の警報センターから発出される宇宙環境警報(Geophysical Alert、通称GEOALERT)の共通フォーマットが定義されている。1963年当時の地域警報センターは、アンカレッジ、ベルボア、ボルダー(米国)、ダルムシュタッド(ドイツ)、国分寺(日本)、モスクワ(ロシア)、ネーデルホスト・デン・ベルグ(オランダ)、パリ(フランス)、ストックホルム(スウェーデン)、シドニー(オーストラリア)の世界10か所に存在していたこと3図5 警報日誌の変遷の年表 https://wdc.nict.go.jp/hsv/about/206 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)5 定常業務
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