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マ密度の増減は、一般的な1周波単独測位等で利用される電離圏遅延モデルでは補正できずに大きな測位誤差を引き起こすほか、より高精度な測位を実現する相対測位(ディファレンシャル測位)においても、基準点との間の電離圏遅延の空間勾配が誤差要因となり得る。GNSSへの電離圏の影響は、電波の伝搬遅延に加えて、プラズマ不規則構造に由来する受信信号強度の不規則な変動がある。「電離圏シンチレーション」と呼ばれるこの現象が発生すると、GNSS受信機による衛星信号のロックが難しくなり、極端に強い場合にはロック損失を引き起こす。日本の準天頂衛星システムによるセンチメートルレベルの測位サービス等、更に高度な衛星測位技術が交通、輸送、建設、農業等の様々な分野において利用が進む中、衛星測位に影響を与えるプラズマ・バブルの正確な監視や予測に対するニーズがますます高まってきている。プラズマ・バブルの生成原因は、基本的には電離圏F領域下部のレイリー・テイラー不安定と考えられており、電離圏高度が高く、プラズマ密度の高度勾配が強いほど、成長率が高くなる傾向がある。また、プラズマ・バブルの発生頻度は、日没線と地球の磁力線の偏角が一致する時期に大きくなるため、顕著な季節及び経度依存性があり、日本を含む東アジア域においては、春と秋に発生頻度が大きくなる。プラズマ・バブルの発生については、このような基本的な生成メカニズムや傾向は明らかになっているが、大気波動による不安定のシーディング(seeding、不安定のきっかけ)の効果や、電離圏下部のプラズマ密度の南北非対称がプラズマ・バブル発生を抑制する効果[1]も影響しており、プラズマ・バブルが、いつ、どこで発生するかを正確に予測することは難しいのが現状である。高度な衛星測位技術の安定利用に資するプラズマ・バブルの監視・予報のためには、プラズマ・バブルの成長につながる電離圏の状態やプラズマ・バブルの発生そのものを監視する電離圏観測網を整備するとともに、長期観測データを生かしたAIによる発生予測など、新たな予測技術の開発も進めて行くことが重要である。本稿では、SEALIONプロジェクトにおける電離圏観測網と最近の研究成果についてレビューするとともに、今後の展望について述べる。SEALIONプロジェクトの現状2.1観測網NICTでは、プラズマ・バブルの生成・伝搬機構の研究を目的に、東南アジア各国の協力の下、東南アジ2表1 SEALION観測サイト観測サイト(ID)地理座標磁気座標**磁気伏角***(dip angle, º)国緯度 (ºN)経度 (ºE)緯度 (ºN)経度 (ºE)2005年2020年Chiang Mai (CMU)18.76°98.93°9.33171.9524.32326.299タイKorat (RUTI)14.99°102.12°5.52174.9516.09418.178タイBangkok (KMI*, KMIT)13.73°100.78°4.29173.6313.17215.311タイChumphon (CPN)10.72°99.37°1.33172.196.0548.269タイKototabang (KTB)-0.20°100.32°-9.54172.90-19.606-17.526タイVientiane (NUOL*, NUO2)17.94°102.63°8.45175.4922.62024.584ラオスBac Lieu (BCL)9.30°105.71°-0.17178.413.0315.188ベトナムCebu (CEB)10.35°123.91°1.26163.685.7446.998フィリピンPhuket (PKT*)8.09°98.32°-1.26171.09-0.2921.945タイPhuket (PTC*)7.90°98.39°-1.45171.15-0.7461.491タイPhu Thuy (PHT*)21.03°105.96°11.49178.7029.06230.823ベトナムHainan (HAN*)19.53°109.13°10.00178.2726.02227.769中国*観測終了**IGRF-13モデルにより導出した磁気座標***IGRF-13モデルにより導出した高度350 ㎞の磁気伏角18   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究

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