する。上昇した電離圏プラズマは、地球の重力と圧力勾配力により、磁力線に沿って磁気赤道から遠ざかるように高緯度・低高度方向に拡散する。このE×Bドリフトと拡散の効果の組み合わせにより、赤道噴水効果と呼ばれるプラズマの噴水状の動きが発生する。この効果により、磁気赤道から両半球に15度程度離れた領域に極大を持つプラズマ密度の高い領域、赤道異常が形成される。赤道異常は、磁気嵐時等に強くなる昼間側の東向き電場に応じて高度・緯度的に発達し、しばしば日本の南部など中低緯度域まで発達することがある。また、赤道を横断する中性大気風により南北半球で非対称となるなど、様々な要因により時間・空間的に変動しており、その正確な規模や構造を予測することが難しい。プラズマ・バブルの成長率に影響するプラズマ密度の高度勾配や、プラズマ・バブルの発生を抑制する下部電離圏プラズマ密度の南北非対称は、赤道異常の発達や南北非対称性とも密接に関係しているため、赤道異常の構造や変動を正確に捉えるとともに、そのメカニズムを明らかにすることは、プラズマ・バブルの発生予測のためにも重要である。赤道異常を含む電離圏変動を観測するため、SEALIONプロジェクトでは、東経100°の磁気子午面の磁気赤道付近(チュンポン)と磁気共役点付近(チェンマイ、コトタバン)、さらに磁気赤道の東西方向の観測網としてバクリウ、セブの5サイトにおいて、FMCW型イオノゾンデを設置している。FMCW型イオノゾンデは、15分ごとに2–30MHzの電波を連続的に送信し、電離圏下部からの反射波を受信することで、電離圏下部のプラズマ密度の高度プロファイルを得ることができる[3]。観測結果として得られるイオノグラムから、電離圏F領域の見かけの高度(h’F)と電離圏のプラズマ密度が最大になる高度(hmF2)などのパラメータが導出され、赤道異常の研究に利用される。見かけの高度h’Fは、F領域の電離圏エコー・トレースから容易に導出可能であるが、昼間においてはF領域より下部の電離圏における電波伝搬遅延の影響により実際の電離圏高度との乖かい離りが大きくなるため、電離圏高度の指標とするのは夜間に限られる。昼間側の電離圏高度の指標としても利用可能なhmF2は、イオノグラムから読み取れるF領域臨界周波数(foF2)と伝送特性パラメータであるM3000指数を用い、Shimazakiの式から算出する[4]。赤道異常の南北非対称性には、赤道横断中性風と赤道噴水効果の強さの相互作用が重要な役割を果たしている。Watthanasangmechai et al. [5]は、SEALIONイオノゾンデの観測データに加え、低軌道衛星のビーコン信号を利用して算出した全電子数(TEC)データを利用し、タイ-インドネシア地域における赤道異常の南北非対称性の時間的変化の詳細な特徴を報告した。本研究では、2012年3月の1か月間のデータを解析し、TECの緯度プロファイルとして導出された赤道異常は、10:30 LT頃から発達し始め、14:30LT頃に両半球における極大の緯度幅が最大となること、また、両半球に図2赤道横断風に応答するTEC緯度プロファイル (a)2012年3月11日21:20-21:40 LTにおいてCOSMOS2463衛星のビーコン信号より導出。(b) 2012年3月27日00:16-00:39 LTにおいてCOSMOS2454衛星のビーコン信号より導出[5]。図3赤道横断中性風の指標となる地磁気共役点(チェンマイ、コトタバン)の電離圏高度変化の二重差 二重差(km)は南北方向の風速(m/s)と読み替えられ、正(負)の符号は北向き(南向き)方向に対応する[5]。20 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究
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