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おける極大の中心がほぼ磁気赤道付近にあることを明らかにした。赤道異常の日々変化については、昼間側では地磁気じょう乱に伴い発生する東向き電場に対応して非常に発達すること、また赤道異常の南北非対称性の急激な変化があることがわかった。南北非対称性の急激な変化は、東向き電場の影響で非常に発達した赤道異常が、複雑な時間変動をする背景の中性大気風により引き起こされていると考えられる。夜間では赤道異常の南北非対称性の急激な変化は顕著に現れていないが、子午線方向の中性大気風の影響により、南北非対称性が顕著に見られることがある。図2は、2012年3月11日(a)及び27日(b)の夜間における TEC 緯度プロファイルを示しているが、前者においては南半球側で、後者においては北半球側でそれぞれ反対半球よりもTECの極大が大きい南北非対称性が見られる。図3は、無風条件でのモデル計算によって得られたh’Fと観測値h’Fとの差分(Δh’F)を地磁気共役点のチェンマイ、コトタバンそれぞれで算出し、コトタバンのΔh’FからチェンマイのΔh’Fを引いたもの(二重差)である。この高度変化の二重差(km)は、赤道を横断する子午線方向の中性大気風の指標として風速(m/s)と読み替えられ、正(負)の符号は北向き(南向き)方向に対応する[6]。このイオノゾンデを用いた赤道横断中性大気風の推定手法の妥当性は、ファブリ・ペロー干渉計によって計測された中性大気風データとの比較により定量的に評価されている[7]。図2(a)及び(b)に示されたTEC極大の南北非対称性は、それぞれ図3(a)及び(b)の北向き及び南向き中性大気風に対応していることがわかる。このことから、夜間の南北非対称性は赤道横断中性大気風が主要な役割を果たしていることを示唆している。2.2.2プラズマ・バブルプラズマ・バブルは、前述したように磁気赤道に近い低緯度域において日没後に発生する現象であり、その発生メカニズムとして電離圏F領域下部のレイリー・テイラー不安定が知られている。レイリー・テイラー不安定の成長率は、電離圏におけるイオンと中性大気粒子の衝突周波数が小さくなる高高度ほど、またプラズマ密度の高度勾配が強いほど高くなる。磁気赤道付近の日没後の電離圏では、電離圏F領域高度の中性大気風によるダイナモ効果により東向き電場が急激に増大するpre-reversal enhancementと呼ばれる現象が発生し、上向きE×Bドリフトにより電離圏高度が上昇するとともに急きゅう峻しゅんなプラズマ密度の高度勾配が生じる。その結果、磁気赤道付近の日没後では、レイリー・テイラー不安定が成長しやすい条件となり、電離圏下部の低密度プラズマが急激に上昇し、電離圏F領域のプラズマ密度が局所的に極端に低くなるプラズマ・バブルが形成される。プラズマ・バブルは磁力線に沿う構造となり、磁気赤道域での高高度への発達に伴い、磁力線方向に数千km、東西方向に数十kmから100 kmの規模にまで発達する。プラズマ・バブル境界付近のプラズマ密度は、水平方向数十km以内で1%以下にまで減少する[8]。また、プラズマ・バブルの内部は、プラズマ密度の減少以外に、二次的な不安定により数cmから数百kmの広い空間スケールのプラズマ不規則構造を伴うことが多い[9]。プラズマ・バブルの発生は、太陽活動依存性があり、太陽活動が活発な時期に非常に発生数が大きい。また、経度により異なる季節依存性があり、アジア域での発生は、3月の春分と9月の秋分に二つのピークがある。近年の太陽活動極小期の観測において、プラズマ・バブルの発生時間は、日没後だけでなく、真夜中以降にも観測されることが明らかになってきた。真夜中以降に観測されるプラズマ・バブルは、プラズマ不規則構造を内包するか否かの二つのタイプに分類される。不規則構造を含むものについては、6月の夏至付近で多く発生しており、生成メカニズムとして、レイリー・テイラー不安定あるいは子午線方向の中性大気風による電離圏F領域の上昇が候補として考えられる[10]。真夜中以降に観測される不規則構造を持たないプラズマ・バブルは、日没後に発生した「fresh」なプラズマ・バブルが、発生場所から真夜中過ぎまで観測点上空に移動してきた「fossil」なプラズマ・バブルであると考えられる。「fossil」なプラズマ・バブルは、小規模なプラズマ・バブルが含まれるクラスターとして現れることが多い。Watthanasangmechai et al. [11]は、衛星ビーコン受信機、地上GPS受信機網及びSEALIONイオノゾンデデータを用いて、2012年3月6日の夜明け前にクラスター状のプラズマ・バブルを観測した。図4に図4GPS-TEC変動成分の経度(横軸)-時間(縦軸)関係図 黒矢印は1つ目のプラズマ・バブルクラスター(PBB#1)の西方向への伝搬を示す。黒破線矢印は2つ目のプラズマ・バブルクラスター(PBB#2)の伝搬方向を示しており、PBB#1と同じ傾向を示している。PBB#1 と PBB#2 の間の水平距離は1000kmとなる[11]。212-2 東南アジア域における電離圏観測: SEALIONプロジェクトの現状と今後の展望

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