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示されたGPS-TEC変動成分の経度-時間関係図から、二つのプラズマ・バブルクラスターが観測されており、両者の水平距離が1,000kmであることがわかる。各プラズマ・バブルクラスター内に含まれる小規模プラズマ・バブル構造の間隔は50 kmであり、高解像度バブルモデル(HIRB)[12]によるシミュレーション結果とも良く一致していた。電離圏下部の上昇面におけるプラズマ・バブルのシーディングの位置が、同一クラスター内のプラズマ・バブルの密度勾配や到達可能高度において重要な役割を果たしている可能性が指摘された。また、このプラズマ・バブルクラスターが検出されたのは04:00LT以降であり、これまでに報告されていた真夜中過ぎのプラズマ・バブルの消失時刻(03:00-04:00 LT)[13][14]よりも遅い時間帯であった。プラズマ・バブルの到達高度が高いほど、消失時間が遅くなることが予想され、プラズマ・バブルの消失メカニズムの解明に資する成果である。プラズマ・バブルの発生と下層大気の活動との関係についても新たな知見が得られた。Ajith et al. [15]は、インドから東南アジアの経度域における複数の地上観測データを用いて、2014年7月28日に観測された発達したプラズマ・バブルについて報告した。図5に示すように、通常はプラズマ・バブルの発達が見られない季節に、pre-reversal enhancementの異常な増強が見られ、その後、経度方向の広い範囲でプラズマ・バブルが観測された。このpre-reversal enhancementは、赤道から離れた電離圏E領域における赤道方向の中性大気風と赤道ジェット電流の経度方向の勾配の増大が関与していることが示された。日没後の電離圏高度上昇と電離圏下部の子午線方向の中性大気風の両方が、2014年7月20–31日の間、一貫して準2日周期のプラネタリー波のような変動を示し、28日に最大の振幅となっていた。下層大気からのプラネタリー波が、局所的な中性大気風系と電離圏E領域の導電率を変化させ、季節外れの日没後の強いpre-reversal enhancement とプラズマ・バブルの発達につながった可能性が示唆された。Dutta et al. [16]は、インドから東南アジア域における2015年から2016年の春秋の観測で、GNSSのL帯シンチレーションが極めて減少していることを見出した。2015年から2016年の冬に記録された異常なエルニーニョ・南方振動(ENSO)と準2年周期振動が、シンチレーションを引き起こすプラズマ・バブルの抑制に一部寄与している可能性が示唆された。Ajith et al. [17]は、インドネシアに設置されたEARレーダーを用い、2013年4月8–9日に、200–250 km間隔の周期的な強いプラズマ・バブルの発生を日没前に観測した。図6に示すように、両日とも、チュンポンのイオノゾンデ観測による電離圏F領域の見かけの高さ(h’F)が日没前に高くなっており、プラズマ・バブルの発生に伴うスプレッドFが発生していた。この日はサイクロンの中心がインドネシア経度域の地磁気赤道付近で観測されており、GPSを利用したTEC観測と電波掩えん蔽ぺい観測により、サイクロンの強い対流活動から大気重力波が励起されて上空へ伝搬し、その水平波長は約300 km図52014年7月28日インド及び東南アジア域で観測された季節外れの強いpre-reversal enhancementとプラズマ・バブル(左上)Bac Lieu(ベトナム)及び(右上)Tirunelveli(インド)のイオノゾンデ観測による電離圏高度(h’F)、(下)KototabangのEARで観測されたプラズマ・バブルのエコー[15]。22   情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究

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