であることを確認した。この大気重力波が、観測された周期的なプラズマ・バブルのシーディングにつながった可能性があると考えられる。また、大気重力波に伴う分極電場が、電離圏F領域を上昇させ、日没前のプラズマ・バブル発達させた可能性も指摘された。2.2.3AIによる電離圏予測近年、様々な研究・産業分野で問題解決のツールとして、人工知能(AI)技術の利用が急増している。電離圏の予測では、非線形挙動を解くことができる誤差逆伝搬型フィードフォワードニューラルネットワーク(NN)が用いられることが多く、例えば、中村 ほか[18]は、長期間の国分寺上空における電離圏観測データを利用し、東京上空の24 時間先までの電離圏変動予測モデルについて報告している。SEALIONによる観測データが長期間蓄積されてきたことにより、日本に比べて変動が激しい東南アジア域の電離圏予測についても、AI技術の適用が可能になってきた。SEALIONのデータにAIを適用した最初の試みとして、Watthanasangmechai et al. [19]は磁気赤道に近いチュンポンのGPS-TECの予測に、中間層1層の誤差逆伝でん播ぱ型フィードフォワードNNを適用した。このNN予測モデルでは、チュンポンにおける2005年から2009年のGPS-TECデータを学習に利用し、NNの入力パラメータには年通算日(day number)、時間(hour number)、太陽黒点数を採用している。図7に示すように、予測結果を観測結果及びIRI-2007モデルと比較して検証した結果、利用可能なデータ量が限られているという制約がある中で、本予測モデルは、学習することが難しい春分や夏至などTECが大きく変動した場合でも予測できることが示された。一方で、予測誤差の原因としては、TECの大きな日々変動やプラズマ・バブルの発生等が指摘され、今後の改善の課題とされた。Wichaipanich et al. [20]は、Watthanasangmechai et al. [19]が開発したNNによる予測手法を東南アジアにおけるイオノゾンデ観測データへ応用し、地磁気共役点であるチェンマイとコトタバン、磁気赤道に近いチュンポンの3地点のfoF2予測を実施した。本NN予測モデルでは、第23及び24周期の太陽活動サイクルを含む2004年1月から2013年12月までのfoF2データを利用した。また、入力パラメータとして2種類の太陽活動度指数と地磁気指数を追加するなど改良を加えた。本NN予測モデル及びIRI-2012モデルについて、それぞれ実際の観測値との差を用いた二乗平均平方根誤差(RMSE)を導出し、両モデルの予測誤差を比較検証した。比較結果の一例として、図8に3地点における本NN予測モデル、IRIモデル(CCIRとURSIオプ図62013年4月の磁気赤道直下のチュンポン(タイ)イオノゾンデ観測による電離圏F領域の見かけの高さ(h'F)の変化緑と赤の線は、それぞれチュンポン上空のE領域とF領域の日没を示す。灰色点線はプラズマ・バブルの発生に伴うスプレッドFを示す[17]。図72005年から2009年の5年間におけるチュンポン上空、12:30LTのGPS-TEC観測値、NNによるTEC予測値、IRI-2017モデルによるTECの比較[19]232-2 東南アジア域における電離圏観測: SEALIONプロジェクトの現状と今後の展望
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