ズマ・バブルの詳細を明らかにしていくことは、発生メカニズムの未解明な部分を明らかにしていく上で重要な資料となり、より精度の高いプラズマ・バブルの発生予測につながることが期待できる。長期間蓄積されてきたSEALION観測データにAI技術を適用し、低緯度電離圏の変動やプラズマ・バブルを予測する試みも実施された。AI技術の一つであるNNを用いた予測モデルは、広く使われているIRIモデルよりも予測性能の有意性が示された。今後、AIによる予測性能を向上させるためには、学習データの量を増やすことや、新しい有効な入力パラメータを追加することに加え、近年発展が著しいAIの新しい手法をSEALIONデータに適用していくことが必要である。プラズマ・バブルにより発生する電離圏遅延の変化や電離圏シンチレーションは、衛星測位技術に影響を与える。Tongkasem et al. [22]の調査では、1周波GNSS測位の誤差は、通常水平方で1.8 m、垂直方向で2.3 mであるが、プラズマ・バブル発生時の誤差は最大で11.4 mに達したことが報告されている。日本の準天頂衛星システムなど高度な衛星測位技術が日本や東南アジアを含む世界の様々な分野において利用が進む中、プラズマ・バブルを正確に監視・予測し、安定した測位を実現する方策が求められている。そのためには、プラズマ・バブル構造を正確に観測し、どの衛星-受信機経路がプラズマ・バブル構造の影響を受けているかを特定して、個々のGNSS測位技術への影響を検証することが必要である。プラズマ・バブルの発生・伝搬とその正確な構造を捉えるため、2020年1月タイ・チュンポンにVHFレーダーを設置した(図10)。このVHFレーダーは、東西90 mの敷地内に等間隔に設置した18台の八木アンテナで構成されるレーダーシステムで、39.65 MHzの電波を上空に発射し、プラズマ不規則構造で散乱(ブラッグ散乱)されるエコーを捉えることで、プラズマ・バブルの正確な構造を観測するものである。今後、観測モードの調整とデータ解析を進めるとともに、磁気赤道に設置されたGNSS受信機も利用してプラズマ・バブルの測位結果への影響を検証し、高度な衛星測位技術の安定利用に貢献していきたい。謝辞現在、宇宙天気に関わるSEALION観測の一部は、総務省からの委託業務「電波伝搬の観測・分析の推進」に基づき実施されています(R1-0155-0112, R2-0155-0133)。SEALIONによる観測は、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン、ラオス各国の研究機関や大学との共同で進められています。タイのモンクット王工科大学ラカバン、チェンマイ大学、ラジャマンガラ工科大学イサン、インドネシア国立航空宇宙研究所、ベトナムのハノイ地球物理研究所、フィリピンのサンカルロス大学、ラオス国立大学、インドネシアのスマトラ島におけるEARレーダー施設を運用する京都大学生存圏研究所の方々に大きな支援と協力を頂いていることに感謝します。SEALIONに関わる運用及び研究開発においては、石井守電磁波伝搬研究センター長、西岡未知主任研究員、Septi Perwitasari研究員、浜真一有期研究技術員、直井隆浩有期研究技術員、永原政人有期研究技術員、中山健司参事、石橋弘光元主任研究員、丸山隆協力研究員にご支援いただきました。また、チュンポンVHFレーダー設置については、名古屋大学の大塚雄一准教授及び電子航法研究所の斎藤享上席研究員に多大なご協力いただきました。心より感謝申し上げます。参考文献】【1齋藤享, 丸山隆, “プラズマバブルの発生における赤道横断熱圏風の効果,” 情報通信研究機構季報, vol.55, nos.1–4, 2009.2丸山隆, 齋藤享, 川村眞文, 野崎憲朗, 上本純平, 津川卓也, 陣英克, 石井守, 久保田実, “SEALIONプロジェクトの概要と初期解析結果,” 情報通信研究機構季報, vol.55, nos.1–4, 2009.3野崎憲朗, “MCWイオノゾンデの開発,” 情報通信研究機構季報, vol.55, nos.1–4, 2009.4Shimazaki T., “World-wide daily variations in the height of the maximum electron density of the ionospheric F2 layer,” J. Radio Res. Lab.,vol.2, no.7, pp.85–97, 1995.5Watthanasangmechai K., M. Yamamoto, A. Saito, T. Maruyama, T. Yokoyama, M. Nishioka, and M. Ishii, “Temporal change of EIA asym-metry revealed by a beacon receiver network in Southeast Asia,” Earth Planets and Space, vol.67, no.75, pp.1–12, 2015. doi:10.1186/s40623-015-0252-96Maruyama T, Saito S, Kawamura M, and Nozaki K, “Thermospheric meridional winds as deduced from ionosonde chain and equatorial latitudes and their connection with mid-night temperature maximum,” J. Geophys. Res., vol.113, A09316, 2008. doi:10.1029/2008JA0130317西岡未知, 丸山隆, 大塚雄一, 津川卓也, 石橋弘光, 塩川和夫, 石井守, “イオノゾンデおよびファブリ・ペロー干渉計によって観測された子午面熱圏風の比較,” 南極資料, vol.57, no.3, pp.357–368, 2013.8McClure, J.P., W.B. Hanson, and J.H. Hoffman, "Plasma bubbles and irregularities in the equatorial ionosphere," J. Geophys. Res., vol.82, pp.2650–2656, 1977.図10 タイ・チュンポンに設置されたVHFレーダー26 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究
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