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2.3GAIAの計算手法・仕様前述のとおりGAIAは全大気圏モデルと電離圏モデルを結合したものである。全大気圏モデルの詳細については文献[18]などに記述されている。同モデルは、水平方向には全球を、高度方向には地表から熱圏上部までの中性大気領域を計算範囲とし、その計算領域を緯度・経度・高度方向に沿って細かい格子に区分けしている。空間分解能は水平方向に波数21、42、106、...まで表現するバージョンがあり(緯度・経度方向に5.6度、2.8度、1.1度に相当)、高度方向には0.4H、0.2H、...(Hはスケールハイトすなわち指数関数的に減少する気圧高度分布の特徴的距離)の分解能を持つバージョンがある。各格子点において流体の方程式(連続式、運動方程式、熱力学方程式)を数値的に解いている。その際に各大気層の物理・化学過程を取り入れており、例えば熱圏では電離圏によるイオン抗力や電流系によるジュール加熱などの過程も計算に含んでいる。GAIAの電離圏部分についての詳細は文献[19]に記述されている。同モデルは全球で高度約100kmから3,000kmまでを計算範囲にとり、水平方向の空間分解能は大気圏モデルと同等、高度分解能は電離圏下端からF層の電子密度ピークを含む高度600kmまで10km、高度600km以上は高度とともに粗くなるように計算格子を設定している。その各格子点にて電離大気の流体方程式を数値的に解く。イオン成分は電離圏E層とF層の主成分であるH+、He+、O+、O2+、N+、N2+、NO+を扱い、それらの電離や化学反応を計算する。GAIAでは全大気圏モデルと電離圏モデルに加え、電気力学モデル[20]も導入している。同モデルは中性大気の運動によって電離圏に電流系が駆動される過程を数値的に解くものである。この要素過程の取り入みにより、下層大気から熱圏まで伝搬した大気波動が電場を生成し、その電場が電離圏の変動を引き起こす過程を再現できる。全大気圏モデル、電離圏モデル、電気力学モデルの結合方法を図3に示す。結合管理ルーチンを導入し、一定の時間間隔で結合管理ルーチンが各モデルの出力変数を取得し、座標を変換して別のモデルに入力する(図中の記号は各モデルの出力変数を表す。Ns, Vs, Tsはそれぞれ密度、速度、温度を示し、s=N, I, Eはそれぞれ中性大気、電離圏イオン、電離圏電子を指す。σは電気伝導度、Eは電場を意味する)。この繰り返しを行い、モデル間の相互作用を含めた時間発展を計算する。GAIAによる熱圏・電離圏の変動・じょう乱の再現        3.1下層大気に由来する熱圏・電離圏の変動 2.2で触れたように2000年代に入って衛星観測から地表の影響を示唆する電離圏電子密度分布が発見された。図4はその電離圏電子密度分布をGAIAで再現し、形成過程を調べたものである[16]。図4aの電離圏F層の電子密度に経度方向の波数4の構造が見られるが(各経度でローカルタイムが15時となるように図を作成)、これは観測と同様な分布である。GAIAのシミュレーション結果から電離圏の波数4の起源を調べると、下層大気における対流活動の経度分布にたどり着くことが分かった。図4dはGAIAで再現される地表の平均雨量を示すが、アフリカ大陸、東南アジア域、アメリカ大陸付近に雨量が多く、積雲対流の活発な領域が地表の海陸分布に依存していることが見て取れる。これらの対流活動の活発な領域では、雲や雨粒の形成に伴って潜熱が解放され、大気波動のエネルギーとなる。そのような領域が経度方向に波数4に近い間隔で分布しているため、同じローカルタイムで見ると波数4を持つような大気潮汐が励起される。この大気潮汐は熱圏まで伝搬し(図4c)、中性–電離大気の相互作用によって波数4の電場分布を生成する(図4b)。詳細な過程の説明は割愛するが(波数4現象のより詳しい説明が以前の宇宙天気予報特集号に掲載されている[21])、この電場が電離圏の運動を駆動し、図4aの電子密度の波数4構造の形成につながることがGAIAより示唆される。図5は別の下層大気の影響についてGAIAで調べた例である[22]。成層圏突然昇温は極域の成層圏において冬季に温度が急上昇する現象である。これは対流圏で地形や海陸の分布によって励起するプラネタリー波と呼ばれる大気波動が成層圏に伝搬し、成層圏・中間圏の子午面循環を駆動して起きるものである。冬季に発生する理由は、冬季にのみ成層圏の東西風の向きがプラネタリー波の伝搬可能な東向きになるためである。2010年頃から成層圏突然昇温の発生時に、熱圏大気の3図3 GAIAにおけるモデルの結合方法312-3 全球大気圏-電離圏シミュレーション

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