密度や電離圏の電子密度が通常時と異なる時間変化をする観測例が報告され始めた([23]など)。GAIAと衛星観測を用いて調べたところ、成層圏突然昇温時に現れる熱圏・電離圏の密度変化は主に半日周期成分の増幅や位相のずれが顕著であることが分かった。熱圏・電離圏の半日周期変動は主に下層大気で励起する半日周期の大気潮汐が上方に伝搬して到達するものであり、GAIAによる解析からは成層圏突然昇温時の子午面循環の変化により、同大気潮汐の伝搬条件が変わって振幅や位相が変調されたものであることが分かった。3.2太陽フレアによる熱圏・電離圏の変動太陽放射光は中低緯度の電離圏と熱圏にとって最も重要な電離及び加熱のエネルギー源である。太陽フレアの発生時にはX線から紫外線に至る幅広い波長域の太陽放射光強度が増加し、大気成分の電離や分子の解離を促進させる。図6は2017年9月6日に発生したX9.3クラスの太陽フレアについて、GAIAを用いて電離圏・熱圏の応答を調べた例である[24][25]。同フレアによる太陽放射スペクトルの変化を図6bに示す(太陽放射スペクトルの経験モデルFISM[26]を使用した)。これをGAIAに入力して計算した際の電離率の変化を示したのが図6c、dである。太陽フレアによる電離率の増加はF層からE層にかけて高度が下がるほど大きい。この例ではフレア前後で高度150kmから100kmにかけて全イオンの電離率が2倍–10倍程度増加している。このうちF層は主に波長20–40nmのEUV光の寄与により、O+、N2+の電離率が増加している。E層では波長15 nm以下のX線によるN+、N2+、O+の電離率(正確には2次的な光電子による電離)が増加している。このように太陽放射光の波長によって作用する大気の高度域・成分が異なっている。GAIAの計算結果では、赤道域でフレア発生直後にTECが12%程度増加し、一方熱圏はフレア発生の2時間後に温度と質量密度が最大6%、18%程度増加した。詳細は文献[24]に記述している。3.3地磁気じょう乱の熱圏・電離圏への影響電離圏は、下層大気からのじょう乱による影響に加えて、磁気圏からも影響を受ける。磁気圏変動(地磁気じょう乱)による電離圏・熱圏への影響を含めるため、極域にかかる電場及びオーロラ降込の変化と、電場の中低緯度への侵入効果を新たにGAIAに加えた。極域電場について、観測に基づく経験モデル[27]に、地球に到来する太陽風プラズマ及び磁場成分の観測値を入力して、電場分布を求める。オーロラ粒子降込みについては、磁気圏活動度の指標であるKp指数に応じて、観測に基づく経験則[28]を基に降込み総量を変化させている。磁気圏へ流出入する電流量からグローバルな電場分布を求めることで、極域に印加された電場が中低緯度まで広がる過程が再現できるようになった。図4電離圏の波数4構造の形成過程[16] (a)電離圏F層のピーク電子密度(ローカルタイム(LT)が15時の分布)、(b)電場ドリフト速度(鉛直上向き、高度300 km、11LT)、(c)中性大気温度(高度110 km、11LT)、(d)地表の降水量図5成層圏突然昇温時の電離圏変動の発生過程[22] 2009年1月後半に起きた成層圏突然昇温時の半日周期成分の電子密度と半日大気潮汐(SW2)の振幅を示す。左の列がGAIAによる計算結果であり、右の列が衛星による観測(COSMIC/FORMOSAT2及びTIMED衛星)を示す。32 情報通信研究機構研究報告 Vol.67 No.1 (2021)2 電離圏研究
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